名古屋地方裁判所 昭和45年(行ウ)10号 判決 1980年12月19日
名古屋市中区大須三丁目一九番二九号
原告
奥村産業株式会社
右代表者代表取締役
奥村昌美
右訴訟代理人弁護士
関根栄郷
同
並木俊守
同
宇都宮正治
同
片桐晴行
右訴訟復代理人弁護士
本間通義
名古屋市中区三の丸三丁目三番二号
被告
名古屋中税務署長
天池武文
右同所
被告
名古屋国税局長
吉田哲朗
右被告両名訴訟代理人弁護士
水野祐一
右被告両名指定代理人
横井芳夫
同
梅田義雄
同
原田耕平
同
藤塚清治
主文
一 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立
(原告)
一 被告名古屋中税務署長(以下「被告税務署長」という。)が原告に対し、昭和四三年七月九日付でなした原告の昭和三七年六月一日から昭和三八年五月三一日までの事業年度(以下「第一年度」という。)の法人税再更正処分(但し、昭和四三年一〇月二九日付異議決定により取消された部分を除く。)のうち、所得金額六、二八九万三、三五八円、留保所得金額一、一七七万五、七〇〇円を超過する部分及び重加算税の賦課決定処分を取消す。
二 被告税務署長が原告に対し、昭和四三年一〇月二九日付でなした原告の昭和三八年六月一日から昭和三九年五月三一日までの事業年度(以下「第二年度」という。)の法人税再更正処分のうち、所得金額六、六三二万四、一六八円、留保所得金額一、七九四万六、三〇〇円を超過する部分及び重加算税の賦課決定処分を取消す。
三 被告税務署長が原告に対し、昭和四五年三月一九日付でなした原告の昭和三九年六月一日から昭和四〇年五月三一日までの事業年度(以下「第三年度」という。)の法人税再更正処分のうち、所得金額六、四五〇万七、二四四円、留保所得金額一、五〇五万二、五〇〇円を超過する部分及び重加算税の賦課決定処分を取消す。
四 被告税務署長が原告に対し、昭和四五年三月一九日付でなした原告の昭和四〇年六月一日から昭和四一年五月三一日までの事業年度(以下「第四年度」という。)の法人税再更正処分のうち、所得金額六、五九九万七、三〇九円、留保所得金額一、五九六万七、五〇〇円を超過する部分及び重加算税の賦課決定処分を取消す。
五 被告税務署長が原告に対し、昭和四五年三月一九日付でなした原告の昭和四一年六月一日から昭和四二年五月三一日までの事業年度(以下「第五年度」という。)の法人税再更正処分のうち、所得金額六、二七五万四、〇一二円、留保所得金額一、二八九万八、〇〇〇円を超過する部分及び重加算税の賦課決定処分を取消す。
六 被告名古屋国税局長(以下「被告国税局長」という。)が、原告の第一ないし第五年度の各法人税再正処分等についての審査請求に対し、昭和四四年一一月一九日付でなした棄却裁決を取消す。
七 訴訟費用は被告らの負担とする。との判決。
(被告ら)
主文同旨の判決。
第二主張
(原告)
請求原因
一 本件課税処分の経緯
原告の第一ないし第五年度の各法人税に関する確定申告、更正・再更正処分ならびに重加算税等の賦課決定、異議申立及び右申立に対する決定、審査請求及び右請求に対する裁決の各日時及び内容は、別表(一)「各更正処分の経緯」記載のとおりである。
二 本件課税処分の違法性
(一) 所得金額の過大認定
原告の所得金額及び留保所得金額は、第一ないし第三年度については、昭和四一年三月一五日付更正及び再更正処分にかかる各金額(第一年度の所得金額六、二八九万三、三五八円、留保所得金額一、一七七万五、七〇〇円、第二年度の所得金額六、六三二万四、一六八円、留保所得金額一、七九四万六、三〇〇円、第三年度の所得金額六、四五〇万七、二四四円、留保所得金額一、五〇五万二、五〇〇円)、第四、第五年度については、原告の確定申告における各金額(第四年度の所得金額六、五九九万七、三〇九円、留保所得金額一、五九六万七、五〇〇円、第五年度の所得金額六、二七五万四、〇一二円、留保所得金額一、二八九万八、〇〇〇円)がそれぞれ正当であって、被告税務署長が原告に対し、第一年度法人税につき昭和四三年七月九日付でなした再更正処分(但し、昭和四三年一〇月二九日付異議決定により取消された部分を除く。)、第二年度法人税につき同年一〇月二九日付でなした再更正処分、第三ないし第五年度各法人税につき昭和四五年三月一九日付でなした再更正処分のうち、前記各所得金額及び留保所得金額を超過する部分ならびに各重加算税の賦課決定は違法である(なお、被告税務署長がなした原告の第一ないし第五年度法人税に関する右各再更正処分ならびに重加算税の賦課決定を以下「本件課税処分」という。)。
(二) 昭和四五年三月一九日付再更正処分の違法性
原告の第三ないし第五年度法人税に関する昭和四五年三月一九日付再更正処分は、禁反言の法理に違反し、また更正権の濫用に当るものであって違法である。
すなわち、被告税務署長は昭和四三年一〇月二九日付異議決定において、原告の主張を一部認容し、「名古屋市中区広小路通り七丁目所在の宅地及び同区裏門前町一丁目所在の宅地ならびに店舗については、それらの資産が原告代表者奥村昌美個人の名義になっており、その売却事実も相当の理由があるので、原告の申立を認める。」として、右物件の売却代金七、五〇〇万円は奥村昌美(以下「昌美」という。)個人に帰属するものであって、原告の第一年度期首(昭和三七年六月一日)における簿外預金三億三、二一〇万七、五一三円(以下「本件期首預金」という。)には、右七、五〇〇万円が含まれており、右金員は原告が昌美より預っているものと判断して、同金額に対応する支払利息四一二万五、〇〇〇円を損金として減算し、課税を訂正した。
これに対し、原告は、右利息の算定利率につき、「第二年度から第五年度の各年度における昌美及び訴外奥村豊に対する貸金について年利率一〇パーセントを適用して利息を認容しているにもかかわらず、昭和三七年五月三一日現在昌美からの預り金七、五〇〇万円については年利率五・五パーセントの支払利息しか認容されていない。従って、受取利息の利率一〇パーセントと支払利息の利率五・五パーセントを一定利率に統一し、受取利息及び支払利息を算定すべきである。」として、審査請求に及んだ。
しかるに、被告国税局長は、異議決定が本件期首預金中、昌美個人に帰属するものと認めた右七、五〇〇万円の発生に関する事実関係にまで立入って審理し、昭和四四年一一月一九日付の審査裁決(以下「本件裁決」という。)において右売却代金七、五〇〇万円は、東京都中央区西銀座八丁目九番地の土地取得代金五、五〇〇万円及び同所の建物建築資金三、七〇〇万円合計九、二〇〇万円の一部として費消されているから、本件期首預金の原資とは認められず、これと異なる認定をした被告税務署長の異議決定は、相当でないとして理由中に「前記預り金に対して各事業年度において支払利息四一二万五、〇〇〇円を損金として認容した原処分を取消す。」旨判示した。しかし、右裁決の右認定は事実を誤認したものであり、昌美個人に帰属する前記七、五〇〇万円は、本件期首預金の原資に含まれているのである。
ところが、被告税務署長は、特に新たな調査をすることなく、右裁決の理由中の判断に基づいて、自ら異議決定において昌美個人に帰属すると認定した前記七、五〇〇万円について、売却物件の真実の所有者は原告であり、従って、右金員は原告に帰属すると認定をあらため、原告の本件訴訟提起後に前記再更正処分を行ったのである。
しかも、被告税務署長は、原告の査察をした昭和二八年以降、昌美個人名義の前記名古屋市中区広小路通り七丁目所在の土地等について、法人たる原告に帰属するとの問題を提起したことは一切なく、昌美も、右不動産は個人の所有に属するものとして、他に売却し、また譲渡所得も申告・納税しているのである。
右のとおり、被告税務署長は、昭和二八年に調査しながら一八年間の長きにわたり、原告の所有とは認めなかった前記不動産について、何ら新しい資料に基づかず、昭和四五年に至って、原告の所有であるという自己の過去の言動に反する措置に出て、過年度に遡って多額の課税をしてきたものであって、納税者たる原告に対し、不測の損害を招来するものであり、禁反言の法理に違反し、あるいは更正権を濫用するものであって違法である。
(三) よって、原告は、本件課税処分の取消を求める。
三 本件の裁決の違法性
(一) 不利益変更禁止違反
本件裁決は行政不服審査法四〇条五項但書、国税通則法九八条二項に違反し、審査請求人たる原告に対し、不利益に原処分を変更したものである。
すなわち、本件裁決は、前記のとおり、異議決定が本件期首預金中昌美個人に帰属するものと認めた前記不動産の売却代金七、五〇〇万円の発生に関する事実関係にまで立入って審理し、結局七、五〇〇万円は昌美個人資金分としては認められないとして、理由中に「預り金に対して各事業年度において支払利息四一二万五、〇〇〇円を損金として認容した原処分を取消す。」旨判示した。
確かに、右は理由中の判断として判示され、裁決主文としては、「審査請求を棄却する。」とされているけれども「原処分を取消す。」と明確に判断している以上、主文に明示されたと同一の効果を原処分庁に対して発生させることは当然であって(もし、主文に明示すると、不利益変更の禁止に抵触することを意識して形式的に理由中の判断にしたとするならば、それはまさに脱法行為に等しい。)実質的に審査請求人の不利益に当該処分を変更したものというべきである。
(二) 判断の遺脱
本件裁決は、原告のした次の各主張に対する判断を遺脱している。
1 本件期首預金中に、売上計上もれ分が含まれているとしても、認定賞与とみるべきである。
2 本件期首預金について、個人預金という立場から、預金利息については、分離課税によって納税義務の履行が完了したものと考え、仮装隠ぺいの意思はなかったのであるから、重加算税の賦課決定は取消されるべきである。
3 第一年度に関する異議申立について、異議決定においては、株式会社中部財界社に対する株式払込金八〇〇万円は申立に理由があるので、賞与処分を取消して、同金額を代表取締役(昌美)に対する貸付金として留保処分とする旨明示されているのに(決定理由NO.5の(1))、計算課税では八〇万円しか賞与処分を取消していないのは不当である。
4 第四年度に関する異議申立について、異議決定においては、株式会社中部財界社に対する株式払込金四〇〇万円は申立に理由があるので、賞与処分を取消して同金額を代表取締役(昌美)に対する貸付金として留保処分とする旨明記されているのに(決定理由NO.1の(1))、計算課税では四〇万円しか取消していないのは不当である。
5 被告税務署長は、原告の東京支店勘定第三年度一〇万円、第四年度四四万円、第五年度四四万円合計九八万円を認定賞与として処理しているが、右はいずれも絵画の買入代金であり、当該絵画は東京営業所に飾られている。よって右金額は原告の資産として、備品勘定に振替処理されるべきである。
(被告ら)
請求原因に対する認否
一 請求原因一の事実は認める。
二 同二、(一)は争う。
同(二)のうち、原告主張のとおりの内容の異議決定、審査請求及び審査裁決がなされたことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。
三 同三、(一)、(二)は争う。
但し、本件裁決中に原告主張のとおりの理由説示がなされていることは認める。
被告税務署長の主張(本件課税処分の適法性)
一 原告は、パチンコ、スマートボール等の遊技場を経営する法人であって、本件係争年度当時、名古屋市内に四営業所、東京都内に一営業所を有し、そのパチンコ台の総数は約一、六〇〇台、従業員は二〇〇名を超え、遊技場業界では、上位の規模の法人である。
二 本件各係争年度における原告の課税所得金額は次のとおりである。
(一) 第一年度
1 原告の認める昭和四一年三月一五日付再更正処分にかかる所得金額 六、二八九万三、三五八円
2 右に加算すべき簿外利益金額 四、四六六万六、〇二七円
3 差引課税所得金額(1+2) 一億〇、七五五万九、三八四円
(二) 第二年度
1 原告の認める昭和四一年三月一五日付再更正処分にかかる所得金額 六、六三二万四、一六八円
2 右に加算すべき簿外利益金額 八、〇五七万五、六五八円
3 差引課税所得金額(1+2) 一億四、六八九万九、八二六円
(三) 第三年度
1 原告の認める昭和四一年三月一五日付再更正処分にかかる所得金額 六、四五〇万七、二四四円
2 右に加算した簿外利益金額 八、三六八万二、九九六円
3 差引課税所得金額(1+2) 一億四、八一九万〇、二四〇円
(四) 第四年度
1 原告の申告にかかる所得金額 六、五九九万七、三〇九円
2 右に加算すべき簿外利益金額 九、八七四万九、九八五円
3 差引課税所得金額(1+2) 一億六、四七四万七、二九四円
(五) 第五年度
1 原告の申告にかかる所得金額 六、二七五万四、〇一二円
2 右に加算すべき簿外利益金額 三、〇二四万六、七七八円
3 差引課税所得金額(1+2) 九、三〇〇万〇、七九〇円
従って、右各課税所得金額の範囲内でなされた本件再更正処分(但し、第一年度については、昭和四三年一〇月二九日付異議決定で取消された部分を除く。)はいずれも適法である。
三 本件各係争年度における簿外利益金額の内訳及び各期末における資産、負債、資本の明細は、別表(二)、(三)記載のとおりであり、各年度期末資産項目中の銀行預金の内訳は別表(四)記載のとおりである。
なお、別表(二)、(三)のうち、次の各項目について次のとおり補足する。
(一) 固定資産の譲渡益計上もれ(第一年度加算項目)
原告の経理部長訴外奥村勲(昌美の従兄弟以下「勲」という。)の作成にかかる公表帳簿外の収支メモ(乙第一号証)の二頁の収入欄に「建物」として記載されていた金額(四六万三、〇〇〇円)は、正規の決算報告書の雑収入明細書(乙第八三三号証)には、建物取りこわしによる廃材の売却代金を雑収入として計上していること、及び同頁下段の支出欄に「建物」の項目があり、右項目は、建物新築に伴う資金の支出が記載されていると認められることなどからすれば、右金額は原告所有建物の売却益と認められる。
(二) 本社の第二年度及び東京支店の第一、第二、第四年度の簿外経費(1給与・賞与、2接待交際費、3修繕費、4雑費)の算定
本社(名古屋)における第二年度の簿外経費の算定に当っては、同年度分の簿外経費に関する資料が存しなかったため、第二年度における本社の期末簿外純資産額(一億七、四一五万一、一四二円)から同期首簿外純資産額(一億二、八二九万五、三〇七円)を控除して、同簿外利益(四、五八五万五、八三五円)を算定し、第二年度の本社の売上計上もれ(七、一七〇万〇、四二三円)及び預金計上もれ(七三四万一、一一四円)の合計金額(七、九〇四万一、五三七円)から、右簿外利益を控除した残額(三、三一八万五、七〇二円)を簿外総経費と認定し、さらに簿外経費の各課目(雑費を除く。)の金額は、本社の第一年度の簿外総経費に占める各簿外経費の構成比率(給与・賞与〇・二九一、接待交際費〇・〇四六、顧問料〇・一五)を右簿外総経費に乗じて算出し、雑費は簿外総経費から右各科目の金額の合計額を控除して算出した。
東京支店における簿外経費の算定に当っては、第一、第二、第四年度については第三年度のような明確な簿外試算表(乙第八四二号証)がなく、簿外経費について支出したとする証拠もないため、右乙第八四二号証に基づき、第三年度の簿外売上げに対する各簿外経費の割合及び簿外経費の合計額の割合(給与・賞与〇・〇六五、接待交際費〇・〇一七、修繕費〇・〇〇〇八、合計額〇・二六五)を算出し、給与・賞与、接待交際費及び修繕費の各比率を第一、第二、第四年度の簿外売上げ(第一年度二、七四〇万九、八〇〇円、第二年度四、四二五万五、〇〇〇円、第四年度四、七一九万円)に乗じて各年度の右各簿外経費を算出し、雑費については、簿外経費の比率を第一、第二、第四年度の簿外売上げに乗じて各年度の簿外経費の総額を算出し(第一年度七二六万三、五九六円、第二年度一、一七二万七、五九六円、第四年度一、二五〇万五、三五〇円)、その総額から雑費以外の簿外経費の合計額(第一年度二二六万九、五三〇円、第二年度三六六万四、三二〇円、第第四年度四三三万九、九八二円)を控除してそれぞれ算出した。
なお、企業会計の原則によれば、修繕費を給与・賞与、交際費等と同じく販売費及び一般経理費として処理し、現状においてもそのように処理することが慣行として確立されているが、本件においては、臨時の巨額な修繕費支出が認められなかったので、慣行どおり給与等の経費と同一に取扱った。
(三) 土地購入立替金(第一年度資産項目)
右立替金三五九万三、四六〇円のうち二〇〇万円については、訴外奥村不動産株式会社が昭和三七年一二月に名古屋市千種区東山元町四丁目五三番所在の土地を取得するに際し、原告が同金額を右取得金の一部として、東京支店の簿外利益のうちから立替えて支払ったもので、被告税務署長は、右金額を土地購入立替金という資産項目で否認して処理したものであり、以下各年度末の資産項目として引き継ぎ計上したものである。
(四) 社長貸付金(第二、第三年度資産項目)、認定賞与(第二年度資産項目)
名古屋市千種区唐山二丁目五二番所在の建物の建設資金六一八万二、七六九円は、第二年度に九〇万円、第三年度に五二八万二、七六九円がそれぞれ簿外で支出されているが、被告税務署長は、右金額を原告の昌美個人に対する貸付金として処理し、第二年度社長貸付金一、六八五万円の中に右九〇万円が、第三年度同三、五九八万二、七六九円の中に右六一八万二、七六九円(右九〇万円+五二八万二、七六九円)がそれぞれ含まれており、以下各年度末の資産項目として、それらの金額は引き継いで計上しているものである。
そして、昌美に対する第二年度認定賞与のうち、三六〇万二、三八三円は、右建物建設資金とは無関係に、損益計算における簿外利益金額を把握した事情から、同人に対する賞与と認定したものである。
すなわち、第三年度における本社の簿外経費率(簿外一般経費-仕入、給与・賞与、接待交際費、顧問料-の合計額の簿外売上金額に対する割合)が二九・七二パーセントであるのに、第二年度のそれは四六・二八パーセントと異常に高く、経費率が異常に高い理由及び個々の経費の内容について原告より何ら合理的な説明がない以上、第二年度に損金として認容した簿外一般経費そのものが過大であったといえる(特に雑費は第三年度の一〇倍以上である。)。そのうえに、右三六〇万二、三八三円を第二年度において何らかの損金として上積みしたならば、同年度における経費率はより異常な高率を示すことになり、かかる不自然、不合理な結果をもたらす場合には、個別具体的に明確な損金のみを認容すべきであって、特定の資産に化体したことも、特定の損金として支出されたことも認められないものについて損金として認容することは許されない。原告主張の三三〇万円が社長貸付金勘定としては過大であったとしても、その資金の使途が明らかでない以上、それが直ちに所得金額減少に結びつくとはいえず、被告税務署長が第二年度について所得金額の変更をしなかったからといって、重復課税とはいえない。また本件各係争年度の本件簿外利益の総額は三億三、七九二万一、四四三円であるところ、これに対応する認定賞与の総額は五、一九四万三、七〇三円と多額にのぼっており、右簿外利益総額の約一五・四パーセントに達している。仮に右認定賞与総額から右三三〇万円を除外したとしても、右比率は約一パーセントの低下をみるにすぎない。このことは簿外利益のうちに如何に多くの金額が昌美の個人的支出に充てられたかを物語るものであり、かかる個人的支出が容易に行われ得る原告の会計組織においては、前記金額の資産化、損金支出が明らかでない以上、昌美の個人的費用に充当されたことが推認され、右三六〇万二、三八三円は、同人に対する利益処分の賞与と認定する。
(五) 訴外長谷川恒雄に支出された二一〇万円(第四年度資産項目)
訴外長谷川恒雄は、昌美個人と親交があり、原告とは直接の関係はなく、同訴外人に対する右金員(但し、二〇〇万円)の支出も同人の海外渡航のための別名義でなされているところ、その費消内容は不明で、同人の海外渡航の目的も原告の業務とは直接関係がないことから、右支出は昌美個人が負担すべき個人的支出と認められ、原告の支出負担に帰すべき損金とは認められない(被告税務署長は、右二〇〇万円は昌美に対する役員賞与と認定し、一〇万円は支払先不明であったので使途不明金として処理した)。
(六) 公課否認(前期損金算入未納事業税の当期益金加算もれ第五年度分)
第四年度の所得金額の計算上損金に認容した未納事業税額は一、一二四万二、四〇〇円であるが、このうち一二〇万〇、四八〇円は昭和四一年三月一五日付再更正処分により、増加した第三年度の所得金額に対応する未納事業税である。
すなわち第一ないし第三年度についてなした昭和四一年三月一五日付再更正処分において、第一年度の増加所得金額に対応する未納事業税を第二年度の、第二年度の増加所得金額に対応する未納事業税額を第三年度のそれぞれの所得金額の計算上損金に認容したものであるが、第三年度の増加所得金額に対応する未納事業税額を昭和四三年七月九日付再更正処分において右一二〇万〇、四八〇円を第四年度の所得金額の計算上損金に認容した。
原告が第五年度において諸税公課として納付し、損金に計上した事業税のうち第三年度にかかる事業税は、第四年度において損金に認容した右一二〇万〇、四八〇円を含む一二九万八、六一〇円であり、右一二〇万〇、四八〇円は、第四、第五年度の所得金額の計算上いずれの年度においても損金として計上された結果、同金額が二重に損金となるため、第五年度において損金に計上した一二〇万〇、四八〇円の損金算入を否認して第五年度の所得金額の計上益金に加算した。
四 本件期首預金の帰属について
被告税務署長は、第一年度期首(昭和三七年六月一日)現在の簿外預金(本件期首預金)三億三、二一〇万七、五一三円(内訳は別表(五)記載のとおり)は次の各事実を総合的勘案した結果原告に帰属すると認定したものであって正当である。
(一) 被告税務署長は、昭和四二年一一月に原告に対する調査に着手し、原告の本社事務所において(イ)勲作成にかかる昭和三七年以降の公表帳簿外の収支メモ(乙第一号証)、公表帳簿外の預金の推移を示したメモ等(ロ)東京支店において訴外奥村不動産株式会社経理部長谷千里(以下、「谷」という。)作成にかかる公表帳簿外の出納帳(乙第二号証)以上の資料を発見したので、右メモ等の調査を進めたところ、原告が日々の収入を計画的に除外し、その資金により多額の簿外預金を有していることが明らかとなった。
すなわち、本件係争年当時においては、本店では名古屋市内の各営業所からの収入金額のうち毎日一〇万円から二〇万円を公表帳簿から除外し、その資金を勲が保管して一定額になると東海銀行上前津支店へ簿外預金し、東京支店では収入金額のうち毎日一〇万円から一五万円を公表帳簿から除外し、その資金を原告の従業員佐藤有代が保管して一定額に達すると谷に渡し、谷は常陽銀行銀座支店へ簿外預金等をしていたものである。
右事実は、被告税務署長の調査着手後、原告がこれらの簿外預金等につき作成した別口貸借対照表・損益計算書(乙第三号証の一・二)を被告税務署長あてに提出したこと、右乙第三号証の一・二に基づいて公表帳簿外の資産・負債を調査対象事業年度の翌事業年度たる昭和四二年六月一日から同四三年五月三一日までの事業年度の確定申告書(乙第四号証)に自ら組み入れていることからも明らかである。
なお、右別口貸借対照表等の預金明細書の差引合計額は本件期首預金額と一致する。
(二) 勲作成の原告の預金に関するメモの一部(乙第八一八号証の一ないし三)には、昭和三七年五月三一日現在の公表帳簿上の原告の各種預金在高と合致する数額(「A」欄)と簿外預金残高と推認される数額(「B」欄)及びその明細が記載されている。
(三) 原告は、役員が昌美の身内で構成され、同人の出資額がその大半を占め、同人が実権を握り、経営している同族会社であり、前記一のとおり毎日相当多額の遊技料金等の現金売上収入があるが、右収入につき領収証の発行を要求されていないところから、売上除外をすることは極めて容易であった。そのため、現金管理及び経理を指揮監督する立場にある昌美は、右収入金額から簿外売上金を作出するよう指示し、右指示に基づく操作は、次のような方法で行われた。
(四) 右簿外売上金は、簿外預金として原告以外の架空名義によって銀行に預入されていた(右架空名義等に使用した印鑑の一部は原告から発見されている)。
また、右簿外預金の作成経過、方法は一旦仮名普通預金に預入した後、右預金から引出し、定期積立預金等に預入し、満期に際し仮名定期預金に移行させる方法、直接仮名定期預金に預入し、その後まとめて高額化させる方法、一時通知預金に預入する方法、取引銀行を変更する方法など種々の方法を駆使して、昌美が実質的に支配、操作管理していた。
(五) 昌美個人の所得金額は、簿外預金額に比べれば極めて少額の所得しかない(別表六参照)うえ、昌美の私生活は派手で、原告からの報酬をはるかに上廻る生活費が必要であったため、簿外の資金から「本宅」等と称して多額の金額が支出・交付されていた。
(六) 原告は、本件期首預金は昌美個人に帰属すると主張しながら、本件調査中、審査請求における審理中はもとより、本訴においてもその立証のための裏付資料を提出することができなかった。
(七) 右簿外預金の預入銀行自体原告に帰属する預金であると認識し、原告に対する貸出の担保としていた。
五 以上のとおり、原告は、本件各係争年度においてその売上収入等の全部を正確に公表帳簿に計上せず、一部の収入を隠ぺいし、右隠ぺいした事実に基づき法人税の納税申告書を被告税務署長に提出したものであって、右所為は、国税通則法六八条一項の規定に該当するから、本件各重加算税賦課決定は適法である。
六 原告は、昭和四五年三月一九日付再更正処分は、禁反言の法理に違反し、また更正権の濫用に当るので、違法である旨主張するが、右主張が理由がないことは次のとおり明らかである。
納税者の権利利益の救済を目的とする納税者の申立に対し、不利益となる変更を禁ずる不利益変更の原則は、当該手続内において増額決定することを禁ずるにとどまるものであるが、本件においては審査請求に対する裁決中では、単に審査請求を棄却したにとどまり、それ以上に原決定の数額を増額したものではないから、何ら右原則に抵触するものではない。
原告の非難する右再更正処分は、この不服申立の一連の手続と全く別個に新たな調査に基づきなされたものであるから勿論適法である。
すなわち、不利益変更禁止原則は、別個の独立した更正処分のごとき別の手続には及ばないものであり、棄却の裁決は単に原処分が違法または不当でないことを判断したにとどまるから、原処分庁は裁決後審査請求の対象となった年度分の税額につき、審査請求手続において蒐集された以外の証拠や資料によって事実関係を再び調査して、例えば期首預金の帰属等について、審査請求手続において修正された原処分に明白な誤認が見出された場合においては、他の納税者との公平という見地から、訴訟係属中であっても更正の期間内である限り、改めて別個の理由に基づいて再更正することは何ら違法となるものではない。
本件において原告が不利益な判断であると主張する前記再更正処分は、昭和四三年一〇月二九日付異議決定に対し、原告から審査請求が提起され、裁決庁において審理の結果、名古屋市中区広小路通り七丁目の宅地及び同区裏門前町一丁目の宅地ならびに店舗の売却代金が他の固定資産の取得費に充てられたため、昌美の個人預金の原資となっていない旨の判断がなされたのでその判断理由に基づき、原処分庁においてさらに証拠蒐集して新たに調査した結果、名古屋市中区広小路通り七丁目の土地建物名義人は昌美個人であるが、実質的所有者は原告であること、当該物件は原告が訴外奥嶋商事から取得していること、同区裏門前町一丁目の土地建物を昌美らから原告が簿外の資金で取得したことの各事実及び新しい資料が判明し、結局右物件はいずれも実質的に原告に帰属し、当該物件の売却代金は原告に帰属することが明らかとなった。そこで、被告税務署長は、租税負担における課税の公平の見地及び実体的真実が明白となったことから、国税通則法七〇条二項四号に規定する国税の更正、決定等の期間制限内において新しい資料と理由に基づき、原告の所得金額を算定し直し、前記再更正処分をなしたもので、何ら更正権の濫用に当らない。
また、被告税務署長は、従前、前記物件が昌美個人に帰属するものであるとの明示の行動をとったことはなく、昌美においても、右物件が昌美個人に帰属するものと誤信して特段の行動に及んだ事情も存しないのであるから、前記再更正処分が禁反言の法理に違反しないことは明らかである。
なお、原告は「昌美は昭和二九年中に名古屋市中区広小路通り七丁目の土地建物を個人として売却し、その譲渡所得の申告納税も昌美個人で行っている。」旨主張するところ、昌美が昭和二九年分の譲渡所得金額一、二七六万八、五二五円を申告していることは事実である。
しかし、その対象となった譲渡物件がいずれの物件であるか、譲渡所得の発生時期がいつか等は現在では保存期間の関係で、個人の申告書等の資料が存在せず、全く明白でない。しかし、仮に、原告の主張するように申告にかかる物件が右広小路の土地建物であるとしても、右物件は実質的に原告に帰属しているのであるから、右物件の売却代金が原告に帰属するのにかかわらず、右売却代金が昌美個人の土地取得資金に支払われているとすれば、原告が昌美に対して右売却代金相当額を賞与として支給したものと取扱われる結果、右売却代金は昌美の昭和二九年分の給与所得を構成するが、昌美の昭和二九年分の申告(別表六)によれば給与所得が二五万五、〇〇〇円のみであるから、右売却代金を加えて計算すると、給与所得は五、五八五万五、〇〇〇円となり、結局昌美の昭和二九年分の所得金額は給与所得五、五八五万五、〇〇〇円であるところ、昌美は右譲渡所得を含め一、三〇二万三、五二五円しか申告しなかったこととなる。
いずれにしても、重要なことは、仮に原告主張のとおり昌美が個人として譲渡所得を含め確定申告し、納税していたとしても、その申告にかかる広小路の土地建物及び裏門前町の土地建物売却代金が本件期首預金に含まれていないことは明白であり(内金五、五〇〇万円は銀座の土地取得資金として支出され、残金二、〇〇〇万円は、同所建物の建築資金の一部に費消された。仮に費消されないとしても奥嶋商事に対する借入金の返済に充当された。)、そうだとすれば原告の右主張は全く意味のないものというべきである。
被告国税局長の主張(本件裁決の適法性)
一 審査手続における審査の範囲は、総所得金額に対する課税の当否を判断するに必要な事項一般に及ぶのであるから、その審査は更正処分の理由に限定されるものではなく、総所得金額に対する課税の当否を判断するに必要な事項全般に及ぶものであるから、その審査は更正処分の理由に限定されるものではなく、総所得金額に対する課税の当否を判断するに必要な事項全般に及ぶものというべきであり、原処分の段階において蒐集されていなかった資料に基づき新たな事実についても当然審査ができるし、またその理由に基づいて処分の当否を判断し得る。
従って、原処分と異なる理由によって、あるいは審査請求人の主張と異なる理由によって原処分を維持し、審査請求を棄却することは、数額の増額を認めているものでない限り、不利益変更に当らず、何ら違法はなく、納税者の権利利益の救済を図る制度の趣旨にもとるものでないことはいうまでもない。
本件裁決は、被告税務署長がなした昭和四三年七月九日付の再更正処分を維持し、原告の請求を棄却したものにすぎず、結局において、最終納税額の増加をきたさない以上原処分を不利益に変更したものということはできない。
二 本件裁決には、判断の遺脱がある旨の原告の主張について
認定賞与は源泉所得税の納税告知処分に関するもので、法人税の課税処分とは別個のものであって、審査請求の対象とならないものであるから、審査請求の申立の理由に、これについて述べているところがあるからといって、必らず裁決中にその応答をしなければ違法となるものではない。また期首簿外預金利息に対する重加算税については、本件裁決書の記載内容と「売上除外と簿外預金」という重加算税の要件を判断している以上、この売上除外を簿外預金としたことにより発生する利息についても当然重加算税は賦課し得るから、本件裁決中においてこの点も当然判示していることは明らかであって、これが違法とはいい得ない。
以上のとおり、本件裁決には、原告の主張するような違法はなく適法である。
(原告)
被告税務署長の主張に対する認否及び反論
一 被告税務署長の主張一の事実は認める。
二 同二は争う。
三 同三のうち、別表(二)につき加算項目中「支払地代不当」、「受取配当金計上もれ」、「受取割引料計上もれ」、「商品取引益計上もれ」、「公課否認」(但し第四年度のみ)、「有価証券売却益計上もれ」、減算項目中「給与・賞与計上もれ」(但し第三、第五年度のみ)、「顧問料計上もれ」、「修繕費計上もれ」(但し、第三、第五年度のみ)、「景品仕入代金計上もれ」、「退職金計上もれ」、「減価償却費計上もれ」、「有価証券売却損計上もれ」、「弔慰金計上もれ」、「支払利息計上もれ」、「広告費計上もれ」、「商品取引損計上もれ」、資産項目中、「関連会社等貸付金」、「社長貸付金」(但し、第一年度のみ)、「関連会社立替金」(但し、第三年度のみ)、「商品取引保証金」、「供託金」、「租税公課損金不算入額」、負債項目中「仮受金」、「商品取引未払金」の各金額が被告主張のとおりであることは認める。
資産項目中の「土地購入立替金」につき、第二年度は二、〇〇〇万円の限度で、第三ないし第五年度は二、一〇〇万円の限度で認め、その余は否認する。「関連会社立管金」につき、第四、第五年度は九六万四、八八〇円の限度で認め、その余は否認する。
その余の項目についてはいずれも否認する。
なお、原告は、被告税務署長の補足主張にかかる次の各項目について、次のとおり反論する。
(一) 固定資産の譲渡益計上もれ(第一年度加算項目)
原告は設立以来建物を他に売却した事実はないし、売却建物を特定しないで、建物売却による譲渡益を算出することは不当である。
(二) 本社の第二年度ならびに東京支店の第一、第二、第四年度の簿外経費(1給与・賞与、2接待交際費、3修繕費、4雑費)の算定
被告税務署長は損益計算を中心に簿外利益を推計しているが、利益算出の要素である簿外経費についても数事業年度、もしくは他のいくつかの同業者の経費率等を参考にして推計すべきであって、同被告のした簿外経費の推計方法は不合理であり、かかる推計に基づく第二年度の課税処分は違法である。
また修繕費という特殊の科目について経費率を乗じて算出する方法は納得できない。
なお、東京支店における第一年度の雑費計上もれ金額は、四九八万八、五八二円である。
(三) 土地購入立替金(第一年度資産項目)
土地購入立替金は一五九万三、四六〇円であって、その余の二〇〇万円については根拠不明である。以下各年度の立替金は右金額がそのまま引継がれて計上されており、不当である。
(四) 社長貸付金(第二、第三年度資産項目)、認定賞与(第二年度資産項目)
昌美が名古屋市千種区唐山二丁目五二番に所在する建物の建設資金に要した金額は六一八万二、七六九円であり、原告が同人に支出した金額は、第二年度中に九〇万円、第三年度中に三二九万五、〇〇〇円であった。そして、勲が右第三年度支出分を何かのメモに三三〇万円と記載していたところ、被告税務署長は誤って、前記六一八万二、七六九円に右三三〇万円を加算してしまい、その加算額より第二年度に課税した九〇万円を控除した八五八万二、七六九円を右建物の建設資金として、社長貸付金として処理したものであって、右貸付金のうち三三〇万円は原告が支出したことのない、被告税務署長が作り出した架空貸付金であった。
その後、被告税務署長は本件裁決が、社長貸付金中三三〇万円は過大計上であるとしながらも、何らの根拠もなく、右金額は昌美に支給したものと認められる旨指摘したことから、右三三〇万円を認定賞与としたが、原告としては、右架空貸付金がなぜ認定賞与となるのか全く納得できない。
被告税務署長は、右三三〇万円の認定賞与は、損益面における簿外利益金額を把握した事情から同人に対する賞与と認定した旨主張するが、これは簿外経費の算定につき純資産増減法を採用した同被告の主張と矛盾する。
その他、同被告は、右三三〇万円の認定賞与の正当性について縷々主張するが、原告が昌美に対し、右三三〇万円を支出したことはなく、同被告においても、その具体的事実を明らかにし得ないのであるから、右各主張は理由がないものというべきである。
(五) 訴外長谷川恒雄に支出された二一〇万円(第四年度資産項目)
右金員は、訴外長谷川恒雄が当時訴外奥村不動産株式会社の取締役であり、かつ医師でもあったことから、原告が当時計画していた静岡県山所在の病院買収につき海外の老人病院の実態及び奥村産業グループの将来の事業計画に必要な資料蒐集、海外事情調査のための経費として、原告から同訴外人に交付したもので、必要経費として処理されるべきである。
四 同四のうち、第一年度期首において、被告税務署長主張の簿外預金(本件期首預金)があったこと、その内訳が同被告主張のとおりであったことは認めるが、本件期首預金が原告に帰属する旨の主張は争う。
本件期首預金は勲が昌美のため管理していたものである。すなわち、昭和三六年六月勲が原告の取締役経理部長となった際、同人が昌美と従兄弟の関係にあったため、昌美の個人資産一切の管理も委ねられ、本件期首預金を含む銀行預金の管理を委託されたのである。
本件期首預金が昌美に帰属するものであることは、次の各事実から明らかである。
(一) 前記収支メモ(乙第一号証)の六頁の「B」欄は、裏勘定(簿外預金)を示すものではない。例えば、同頁の「社長預り一億五、五〇一万五、二七五円」については、昌美より直接管理委託を受けた勲が昭和三六年一一月三〇日現在の預金額を示して預り金を明示したものであって、「B」欄の預金額は昌美の個人預金を示し、「A」欄は原告の預金を示している。また、同頁には、昌美個人の借入金が「B」欄に表示されていることからいっても、「B」欄は昌美個人の帰属を表示したものである。
(二) 前記預金に関するメモ(乙第八一八号証の二)の「A」欄・「B」欄は、(一)と同様に、「A」欄が公表帳簿上の預金を示し、「B」欄は昌美個人の預金を示している。
(三) 右メモ(乙第八一八号証の二)の「B」欄一〇行目に貸付信託八〇〇万円の記載があるが、このうち四〇〇万円については、被告税務署長が本件の異議申立の段階で昌美個人に帰属するものと認め、昌美の個人預金が存在していたことを認めている。
(四) 前記貸借対照表・損益計算書(乙第三号証の二)の記載によっても、本件期首預金が原告に帰属しないことを前提として一貫した処理がなされている。すなわち、本件期首預金について、右乙号証において昌美個人帰属分として区別されていたし、右乙号証四一頁「預り金明細書<1>(預り証券)」の記載からしても、原告は昌美個人帰属分の預金を預り金として処理していたことは明らかであるから、右期首預金は昌美個人に帰属するものである。
(五) 本件期首預金の外に昌美個人名義の銀行預金等一切なく、かつ同人は別に蓄財した形跡がないが、同人の業界における地位などからみて個人預金を有しないとは到底考えられない。
(六) 本件期首預金のうちの七、五〇〇万円は、昌美が所有していた名古屋市中区広小路通り七丁目の土地及び同区裏門前町一丁目の土地(昭和二九年五月一七日取得)ならびに建物を昭和二九年と同三〇年に売却したことにより発生したものである。
被告税務署長は、右七、五〇〇万円は東京都中央区西銀座八丁目九番地の土地取得代金及び同所建物建築資金に費消されたから、本件期首預金の原資とはなっていない旨主張するが、右のような事実はなく、右銀座の土地については昌美が取得しているも、右建物は原告が建築したのであり、その建設資金は原告が負担支出しているのである。
(七) 本件期首預金の中に昌美個人の表勘定上の給与、昌美個人の事業による収入、不動産売却等による収入、さらには訴外第二物産株式会社からの売上除外金等が混入している。
(八) 本件期首預金の中に昌美個人が受け取った訴外第二物産株式会社の解散による株主への剰余金二、〇〇〇万円が含まれている。右金員は株主名義人である昌美に分配されたものである。
(九) もし、本件期首預金が簿外資産であるとすれば、当然簿外経費に費消されるべきであるが、本件期首預金は簿外経費には一切使用されていない。
(十) 本件期首預金は、昭和四三、四四、四五年の三期にわたって解約され、被告税務署長のなした本件再更正処分による課税処分の納税のため、原告のための納税資金として費消され、その時点において昌美個人よりの借入金として表勘定上処理されている。
ところで、本来、本件期首預金自体は国税通則法七〇条、七二条により課税権及び徴収権がすでに五年の除斥期間及び消滅時効にかかっている時効預金である。
従って、被告税務署長は本件期首預金自体については課税処分をすることはできず、たまたま右預金が現存していたため、そこから発生する利息について課税してきたのである。
そもそも課税権の除斥期間はいうまでもなく、租税債務者の地位の安定に資するものであり、それは畢意事実調査の困難性や事実認定のむしかえし等からする不安定性を排除することを目的とするものである。除斥期間が権利関係を速やかに確定しようとするものであり、しかもその効果が絶対的であることからすれば、課税権が消滅している以上その反射的効果として、課税要件たる事実認定(本件でいえば、本件期首預金が法人たる原告に帰属するという事実認定)について不可争性が発生しているというべきである。そうすると、本来期首預金と附従性のある預金利息について、その帰属の事実認定は期首預金の帰属の事実認定に全面的に依存しているのであるから、結局期首預金の帰属自体の事実認定の問題に帰着するものであり、その事実認定を現時点で求めること自体許されないというべきである。
仮に、右主張が理由がないとしても、いわゆる時効預金の帰属をめぐる立証については、前述の除斥期間との関連において、安易に推定とか間接的な証拠によることは許されず、直接的、確定的な立証を要するものというべきである。
しかるに、本件において、被告税務署長は到底その立証をつくしていないことは明らかである。
五 同五の事実は否認し、その主張は争う。
六 同六は争う。
被告国税局長の主張に対する認否
被告国税局長の主張は争う。
(被告税務署長)
本件期首預金に関する原告の主張に対する反論
一 原告は、前記収支メモ(乙第一号証)の六頁の「B」欄は、原告の簿外預金を示すものではないと主張するが、同欄に記載された数額は、本件期首預金の一部を合計した数額と一致するので、このことからしても、右「B」欄が原告の簿外預金を示すものであると認定することには合理性があり、適正である。原告が預金の具体的内容を省略し、一括して昌美個人から預ったと称し、右収支メモに「社長預り」と記載しても、右「社長預り」は原告の簿外預金の一部にすぎず、預金が元来昌美個人に帰属するものではないから、右記載のみをもって昌美の個人預金であるとは到底考えられない。
また、昌美個人の借入金が「B」欄に表示されているからといって、「B」欄が昌美個人の帰属を表示したこととはならない。
二 原告は、前記預金に関するメモ(乙第八一八号証の二)の「B」欄は、昌美個人の預金を示している旨主張するが、極めて多額の預金を昌美個人が自己の所得等から毎月継続して現金で預入するとは到底考えられず、他に入金に見合う預金源や預金事情が存しない以上は経済的にみて原告の事業所得から預金されたものと認めるのが相当である。
従って、右メモの「B」欄の数額は原告の本件期首預金を記載したものと考えられる。
三 原告は、右預金メモの「B」欄一〇行目記載の貸付信託八〇〇万円のうち四〇〇万円について、被告税務署長は昌美個人に帰属するものと認め、昌美の個人預金が存在していたことを認めている旨主張するが、被告税務署長は右貸付信託四〇〇万円は、訴外亡奥村富次郎(昌美の父)ないし同人の娘に帰属し、原告には帰属しないものと判断したにすぎず、昌美個人に帰属するものと認めたことは全くない。
四 原告は、別口貸借対照表、損益計算書(乙第三号証の二)の記載によっても、本件期首預金が原告に帰属しないことを前提として一貫した処理がなされている旨主張するが、本件期首預金が昌美個人に帰属していたものと認められないのであるから、たとえ右乙号証で昌美個人からの預り金として処理したからといって、公表帳簿外の仮装隠ぺいのための便宜的な処理にすぎないものであることは明らかである。
五 原告は、昌美の地位からして個人預金を有しないとは考えられない旨主張するところ、昌美には多額の個人名義預金はなかったが、仮名による個人預金が本件簿外預金とは別に存在しており、また個人で東京都内等に不動産を取得していたから、個人資産を有していたことは確かである。もっとも右資産と本件期首預金とは無関係である。
六 原告は、本件期首預金のうちの七、五〇〇万円は、昭和二九、三〇年に昌美個人の資産である名古屋市中区広小路通り七丁目の土地及び同区裏門前町一丁目の土地ならびに店舗を売却したことにより発生したものである旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、右各物件は実質的に原告の所有であり、その売却代金は原告に帰属するものである。
さらに、右各物件の売却代金のうち五、五〇〇万円は、昭和二九年七月東京都中央区銀座西八丁目九番地の土地の取得資金として支出し、残金二、〇〇〇万円は、昭和三〇年同所の建物の建築資金の一部に費消されているのであって、右売却代金七、五〇〇万円は、本件期首預金の原資とはなっていないから、原告の右主張は理由がない。
七 原告は、本件期首預金の中に昌美個人の表勘定上の給与が混入している旨主張するが、前記収支メモ(乙第一号証)に昌美個人分の給与額が収入として記載されているといっても、右号証には、昌美個人等へ支払われた金額が支出として記載されており、しかもその支出額は右収入額より多いこと、昌美へ支払われた金員は昌美の生活費に費消されたものと認められることからすると、昌美個人の正規の給与額に相当する個人預金が発生するいわれはなく、昌美の給与額分が本件期首預金に混入されていることはない。
また、原告は、昌美個人の事業による収入、不動産売却等による収入、訴外第二物産株式会社からの売上除外等も本件期首預金に混入している旨主張するが、そのような事実はない。
八 原告は、本件期首預金の中に昌美個人が受け取った訴外第二物産株式会社の解散による株主への剰余金二、〇〇〇万円が含まれている旨主張するが、右訴外会社が右剰余金を支払った事実の有無自体不明であるうえ、仮に右剰余金が支払われ本件期首預金の中に含まれているとしても、右訴外会社の実質株主は昌美ではなく原告であるから、右剰余金が昌美に帰属することにはならない。
九 原告は、本件期首預金は簿外経費に一切使用されていない旨主張するが、簿外経費は原告の収入除外等によって得られた簿外資金によって賄われているのでありそのうえ、更に簿外預金を取り崩すまでの必要はなかったから、簿外経費として支出しなかったにすぎない。
一〇 原告は、本件期首預金は本件係争年度昌美個人よりの借入金として表勘定上処理されている旨主張するが、原告帰属の本件期首預金はこれを公表帳簿上明らかにできないのであるから、偶々納税資金が不足した際に便宜上昌美個人からの借入金として処理したにすぎず、右処理がなされているという一事をもって、本件期首預金が昌美の個人資産であるということはできない。
一一 原告は、本件期首預金は時効預金であるから、その帰属に関する認定については不可争性が発生している旨等主張するが、当該預金から発生する預金利息に対する課税のための必要上、除斥期間等が経過した後においても、課税庁がその帰属についての調査、認定をすることは何ら差支えないのであって、原告の主張は理由がない。
第三証拠
(原告)
一 甲第一、第二号証の各一ないし五、第三ないし第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇ないし第一五号証を提出。
二 証人谷千里・同奥村勲の各証言、原告代表者奥村昌美本人尋問の結果を援用。
三 乙第八三五ないし第八三七号証、第八四五ないし第八五〇号証、第八五三号証の一ないし三、第八五四号証の成立、第八二一号証、第八五一号証が被告ら主張の書面であることは不知。
その余の乙号各証の成立は認める。
(被告ら)
一 乙第一、第二号証、第三号証の一・二、第四ないし第三三号証、第三四、第三五号証の各一ないし八、第三六ないし第四六号証、第四七、第四八号証の各一・二、第四九号証、第五〇号証の一・二、第五一ないし第五四号証、第五五号証の一・二、第五六、第五七号証の各一ないし五、第五八ないし第七〇号証の各一・二、第七一ないし第八〇号証、第八一ないし第八七号証の各一・二、第八八ないし第一三〇号証、第一三一号証の一ないし八、第一三二号証の一ないし五、第一三三ないし第二五四号証、第二五五号証の一ないし四、第二五六号証の一ないし三、第二五七号証の一ないし八、第二五八号証の一ないし四、第二五九ないし第三九八号証、第三九九号証の一ないし六、第四〇〇号証の一ないし四、第四〇一ないし第四〇六号証、第四〇七号証の一・二、第四〇八ないし第六一八号証、第六一九ないし第六二二号証の各一ないし四、第六二三号証の一・二、第六二四ないし第八一七号証、第八一八号証の一ないし三、第八一九号証、第八二〇号証の一ないし三、第八二一ないし第八二四号証、第八二五号証の一ないし九、第八二六、第八二七号証の各一・二、第八二八号証の一ないし六、第八二九ないし第八四一号証、第八四二号証の一ないし三、第八四三号証の一・二、第八四四ないし第八五一号証、第八五二号証の一・二、第八五三号証の一ないし三、第八五四号証、第八五五号証の一ないし三、第八五六ないし第八五八号証(乙第八二一、第八五一号証は仮名預金等に使用した印鑑の印影のある書面である。)
二 証人渡辺則是・同藤枝茂・同渡辺正司・同平川正雄の各証言を援用。
三 甲第四、第五、第七、第一二号証の成立は不知、第六号証中官署作成部分の成立は認めるが、その余は不知、その余の甲号各証の成立は認める。
理由
第一本件課税処分の経緯
請求原因一の事実(本件課税処分の経緯)については当事者間に争いがない。
第二本件課税処分の適法性
一 原告がパチンコ、スマートボール等の遊技場を経営する法人であって、本件係争年当時、名古屋市内に四営業所、東京都内に一営業所を有し、そのパチンコ台総数一、六〇〇台、従業員は二〇〇名を超え、遊技場業界での上位の規模であったことは当事者間に争いがなく、証人渡辺則是・同奥村勲の証言及び原告代表者奥村昌美本人尋問の結果によれば、原告は昭和二三年六月に設立された会社で、その株式の大半は、昌美及びその親族名義であり、しかも親族はいわゆる名義株主で、実質的には、昌美がこれらの株式全部を保有しており、昌美により経営され、その役員も昌美の身内で構成されている典型的な同族会社であることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
二 原告の売上除外及び簿外預金の形成
成立に争いのない乙第一、第二号証、第三号証の一・二、第五ないし第三三号証、第三四、第三五号証の各一ないし八、第三六ないし第四六号証、第四七、第四八号証の各一・二、第四九号証、第五〇号証の一・二、第五一ないし第五四号証、第五五号証の一・二、第五六号証の一ないし五、第五七号証の一ないし五、第五八ないし第七〇号証の各一・二、第七一ないし第八〇号証、第八一ないし第八七号証の各一・二、第八八号証、第九〇ないし第一三〇号証、第一三一号証の一ないし八、第一三二号証の一ないし五、第一三三ないし第二三五号証、第二三七ないし第二五四号証、第二五五号証の一ないし四、第二五六号証の一ないし三、第二五七号証の一ないし八、第二五八号証の一ないし四、第二五九ないし第三九八号証、第三九九号証の一ないし六、第四〇〇号証の一ないし四、第四〇一ないし第四〇六号証、第四〇七号証の一・二、第四〇八ないし第五八一号証、第五八三ないし第六一八号証、第六一九号証の一ないし四、第六二〇ないし第六二二号証の各一ないし四、第六二三号証の一・二、第六二四ないし第八〇八号証、第八一〇ないし第八一七号証、第八一八号証の一ないし三、第八二〇号証の一ないし三、第八二二ないし第八二四号証、第八二五号証の一ないし九、第八二九ないし第八三二号証、第八四二号証の一ないし三、第八四三号証の一・二、第八五二号証の一・二、第八五五号証の一ないし三、第八五七、八五八号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一二号証、証人藤枝茂の証言により被告ら主張の書面であることが認められる乙第八二一号証、証人渡辺正司の証言により成立の認められる乙第八四五ないし第八四八号証、第八五〇号証、同証言により被告ら主張の書面であることが認められる乙第八五一号証、証人平川正雄の証言により成立の認められる乙第八五三号証の一ないし三、第八五四号証、証人谷千里・同奥村勲・同渡辺則是・同藤枝茂・同渡辺正司・同平川正雄の各証言ならびに原告代表者奥村昌美本人尋問の結果を総合すると、名古屋国税局係官は昭和四二年一一月から同四三年七月までの間、本件係争各年度における原告の所得調査を実施したところ、本社及び東京支店事務所から原告が秘匿していた昭和三七年度以降の簿外収支メモ、簿外の出納帳(乙第一、二号証)等が発見され、被告係官は、これら書類に基づき調査を進めた結果、大要次のとおりの事実が判明するに至った。即ち原告は昭和二五年頃からパチンコ、スマートボール等の営業をはじめ、毎日相当多額の遊技料等の現金売上収入を得ていたが、本件係争年度前遅くとも昭和三一年頃から、昌美の指示により、右収入金額の一部を公表帳簿から除外し、右簿外売上金を東海銀行上前津支店、神戸銀行名古屋栄町支店、常陽銀行銀座支店等へ仮名の定期預金等により簿外預金をしていた。右簿外預金の操作・管理は、昭和三六年二月頃までは経理部長広藤泰久が行い、同人退職後の同年六月頃からは、その頃原告の経理部長に就任した勲(昌美の従兄弟)が担当した。第一年度の前年である昭和三六年六月一日から昭和三七年五月三一日までの事業年度における売上除外金額は、本店(名古屋)においては一億二、〇七四万円、東京支店においては四、八五九万円であり、右事業年度における本店の簿外預金額は七、九〇〇万円であった。本件係争年度当時においては、本店では名古屋市内の各営業所からの収入金額のうち毎日約一〇ないし二〇万円を公表帳簿から除外し、その資金を勲が保管して一定額に達すると、東海銀行上前津支店等に預金し、または一部を東京支店へ送金していた。右送金分は、昌美の経営にかかる訴外奥村不動産株式会社の当時の経理部長で、原告の東京支店における右簿外預金の管理等にも携わっていた谷において、常陽銀行銀座支店等に預金していた。東京支店では、収入金額のうち毎日約一〇ないし一五万円を公表帳簿から除外し、その資金を原告の従業員であった訴外佐藤有代が保管して一定額に達すると、右谷に渡し、谷は常陽銀行銀座支店等に簿外預金していた。谷は右預金の状況を含め東京支店の簿外の収支関係を勲に報告しており、右簿外預金は、いずれも原告以外の架空名義あるいは無記名によってなされたが、一旦仮名による普通預金に預入した後、右預金から引出して定期積立預金に預入し、満期に際し仮名定期預金に移行させる方法、仮名普通預金から仮名定期預金に移行させる方法、直接仮名定期積立預金に預入し、その後まとめて高額化させる方法等によって形成されていた。本件係争年度における簿外預金は、右のような方法で前記売上除外金によって形成されていた。
以上の事実が認められ、以上の認定の趣旨に反する証人奥村勲の証言部分及び原告代表者本人尋問の結果部分は、たやすく信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。
二 本件期首預金の帰属について
第一年度期首(昭和三七年六月一日)現在において、本件期首預金三億三、二一〇万七、五一三円が存在していたこと及びその内訳が別表(五)記載のとおりであることは当事者間に争いがないが、その帰属について争いがあるので、以下この点について検討する。
(一) 原告は、遊技場業界において上位の規模を有し、開業以来毎日相当多額の現金売上収入を得ていたところ、遅くとも昭和三一年頃から収入金額の一部を公表帳簿から除外し、仮名による簿外預金を形成していたこと、第一年度の前年である昭和三六年六月一日から昭和三七年五月三一日までの事業年度についてみ、ても、その売上除外額及び簿外預金額は極めて多額であること、本件係争年度における売上除外額も相当多額であり、簿外預金は専ら右売上除外金によって形成されていること、原告は昌美により経営されている同族会社であって、昌美が実質的に簿外預金を支配・管理していたこと、以上の前記認定の各事実、遊技料は現金売上収入であって、領収証を発行する必要もなく、売上除外をすることが極めて容易であると考えられること、前掲乙第八二二ないし第八二四号証、第八二五号証の一ないし九、第八五三号証の一ないし三ならびに弁論の全趣旨によれば、原告は、(イ)常陽銀行銀座支店に対し、昭和三一年七月以降、昭和三三年七月以降ならびに昭和三五年八月以降それぞれ定期積立預金(契約金額合計三、〇〇〇万円、期間二年、一ケ月の積立金合計一二〇万円)をなし、右預金は本件期首預金の一部を形成していること(ロ)常陽銀行銀座支店に開設された架空名義である松浦修造、藤本昭人、高崎義則の各普通預金口座には別表(七)記載のとおり、毎月多額の現金が預入れられ、一定金額になると定期預金に組み替えられて、本件期首預金の原資ともなっていることがそれぞれ認められるが、右のような定期的、継続的な多額の預金の資金が昌美個人の所持金等により賄われたものとは到底考えられず、右資金は売上除外金であると考えられること、前掲乙第八五八号証によれば、昭和三六年二月まで原告の常務取締役兼経理部長であった訴外広藤泰久は、名古屋国税局直税部係官の事情聴取に対し、昭和三六年二月当時売上除外による原告の簿外預金は二億四、〇〇〇万円程度存在していた旨申述していることが認められること、前掲乙八四五ないし第八四七号証、証人平川正雄の証言と同証言により成立の認められる乙第八五四号証によれば、原告の主取引銀行であって、簿外預金の預入先である常陽銀行銀座支店は、簿外預金は原告に帰属するものと認識していて、右簿外預金を担保にして原告に対する貸出を行っていたことが認められること、前掲乙第八五八号証、証人渡辺則是・同藤枝茂・同奥村勲の各証言によれば、昭和二九年以降昭和三六年までの昌美の申告所得金額は別表(六)記載のとおりであって、簿外預金額に比して極めて少額であるうえ、昌美の私生活は派手で、原告からの報酬をはるかに上廻る生活費が必要であったため、簿外の資金からの多額の金員が昌美に支出されていたことが認められること、原告は、本件期首預金は昌美に帰属する旨主張するが、右主張を肯認すべき証拠はないこと(詳細については後述)、前掲乙第八一八号証の二(勲作成の預金に関するメモの一部)、成立に争いのない乙第八四四号証によれば、右預金に関するメモの「A」欄に記載されている各種預金の明細及び合計金額は、昭和三七年五月三一日現在の公表帳簿上の原告の各種預金在高の明細及び合計金額と合致することが認められるところ、同メモの「B」欄には「東海銀行上前津支店定期預金四、四〇〇万円、同銀行通知預金七〇〇万円、神戸銀行名古屋栄町支店定期預金五、六五〇万円、同銀行通知預金四〇〇万円、住友銀行定期預金八〇〇万円、大和銀行定期預金五〇〇万円、常陽銀行銀座支店定期預金一億一、八二六万〇、五六八円、同銀行定期積立預金二、六四〇万円、同銀行通知預金二、一〇一万三、九四五円、同銀行普通預金一、〇〇七万六、七三三円、常陽銀行東京支店定期預金四、〇〇〇万円、住友銀行新橋支店普通預金七五〇万二、九一七円、第一銀行虎ノ門支店通知預金三〇〇万円、住友銀行新橋支店定期預金二〇〇万円」と記載されており、本件期首預金の前記明細とほぼ合致していることが認められ、右は前掲乙第三号証の一(名古屋国税局係官による本件調査着手後勲が作成し、被告税務署長に提出した別口貸借対照表・損益計算書)に記載されている期首簿外預金の明細とも一致し、また前示認定したところと併せ考えると、右「B」欄は原告の簿外預金残高を示すものと推認されること、以上の諸事実を総合勘案すると、本件期首預金は全額原告に帰属するものと認めるのが相当である。
(二) 右認定に反する原告の主張は以下詳述するとおりの理由のないものといわざるを得ない。
1 原告は、前記収支メモ(乙第一号証の六頁)や前記預金に関するメモ(乙第八一八号証の二)の各「B」欄は、原告の簿外預金を示すものではなく、昌美個人の預金を表示しているものである旨主張するが、前記(一)掲記の事実等からして、右「B」欄は原告の営業活動による所得により形成された簿外預金を記載したものと認められ、原告の右主張は採用し難い。
もっとも、右収支メモ(乙第一号証の六頁)の「B」欄には「社長預り一億五、五〇一万五、二七五円」と記載されているが、前掲乙第八一八号証の二、第八四五号証、第八五三号証の一ないし三、第八五八号証、成立に争いのない乙第八五六、第八五七号証及び証人奥村勲の証言によれば、当時原告の取締役経理部長であった訴外広藤泰久は、簿外預金の一部を原告の従業員に分配すべく、昌美に提案したが容れられなかったため、同人は、昭和三六年二月頃常陽銀行銀座支店、住友銀行新橋支店等の簿外預金のうち合計約九、五〇〇万円を独断で払戻しを受けたため、昌美は、同人を解任しようとして、両者の間で紛争が生じたが、結局和解が成立し、右金員は原告に返還されるに至ったこと、右返還金は、その後昭和三七年五月三一日までに簿外預金である常陽銀行銀座支店の定期預金一億一、八二六万〇、五六八円、同銀行東京支店の定期預金四、〇〇〇万円の一部として預入れられていること、前記収支メモ「B」欄「社長預り」の中には、右返還金が含まれていること、以上の事実が認められること、前掲乙第八一八号証の三(勲作成原告簿外預金の口座番号、預金者名を記載したメモ)には、「社長預り」等昌美個人の口座であることを示す記載はないこと、右「社長預り」中右九、五〇〇万円を除くその余の分について昌美個人に帰属するものであることを認むべき証拠はないことなどからすると、右「社長預り」分は、原告の簿外預金の一部であると認めるのが相当であって、右収支メモに「社長預り」と記載してあることは、右「B」欄が昌美個人の簿外預金であることを示す資料とはならないものというべきである。右認定の趣旨に反する証人奥村勲の証言部分及び原告代表者本人尋問の結果部分は、たやすく信用できない(右本人尋問の結果中には、右「社長預り」分は、昌美の不動産収入、相場取引による収入によるものである旨の供述部分が存するが、これを裏付けるべき資料は何ら存しない)。
また、収支メモ(乙第一号証の六頁)の「B」欄には、「常陽銀行銀座支店、社長積八九万八、五〇〇円」なる記載があるところ、証人藤枝茂の証言によれば、右「社長積」金は昌美個人名義の預金を記載したものであることが認められるが、右収支メモは昭和三六年一一月三〇日現在の預金在高を示すものであり、また前記預金に関するメモ(乙第八一八号証の二)の「B」欄には、右金額に相当する預金の記載はないことからして、右収支メモ(乙第一号証の六頁)の「B」欄に、「社長積」として昌美個人の預金が記載されていることをもって、右「B」欄がすべて昌美個人の預金を示すものであり、本件期首預金が昌美に帰属することの証左とはなり得ないものといわざるを得ない。
また、収支メモ(乙第一号証の六頁)には、借入金内訳として、「常陽(社長個人)三〇〇万円」なる旨の記載があるが、証人藤枝茂・同奥村勲の各証言によれば右借受金の記載は、昌美が原告の公表帳簿上の預金から借受けていることを示していることが認められるから、右記載は、原告の主張を維持すべき資料とはなし得ない。
2 原告は、前記預金に関するメモ(乙第八一八号証の二)の「B」欄一〇行目に「住友信託定期八〇〇万円」の趣旨の記載があるところ、右金員のうち四〇〇万円については被告税務署長が本件異議決定の段階で昌美に帰属するものと認め、昌美の個人預金が存在していたことを認めていた旨主張するが、成立に争いのない乙第八二六号証の一・二及び証人奥村勲の証言によれば、右八〇〇万円は、貸付信託であり、その内四〇〇万円は、昌美の父訴外奥村富次郎名義で同人の委託を受けて、勲が管理していたものであり、右訴外人が死亡後の昭和三九年八月解約され、六女節子結婚の際の祝金として渡されていたこと、従って、右四〇〇万円は原告の簿外預金ではないので、国税局係官の調査の段階で、右事実の申告を受けた係官が右事実を認めて、右四〇〇万円については、原告の簿外預金から除外したことが認められ、右事実によれば、被告税務署長が右四〇〇万円を昌美に帰属すると認めたことはないことが明らかであるから、原告の右主張は理由がない。
3 原告は、別口貸借対照表・損益計算書(乙第三号証の二)の記載によっても、本件期首預金が原告に帰属しないことを前提として一貫した処理がなされている旨主張するが、証人渡辺則是・同奥村勲の各証言によれば、右別口貸借対照表・損益計算書は、名古屋国税局係官の調査開始後、昭和四三年三月に原告より名古屋中税務署に提出されていた別口貸借対照表・損益計算書(乙第三号証の一)を修正し、本件期首預金が損益計算のうえで実質上昌美個人に属することになるよう貸借対照表上貸方欄に昌美個人からの預り金勘定として計上したものであり、勲が意図的に作成し、右税務署に提出したものであることが認められるから、右別口貸借対照表・損益計算書は、本件期首預金が昌美個人に帰属することの認定資料とはなし得ないものというべきであって、原告の主張は理由がない。
4 原告は、本件期首預金が昌美個人に帰属することの理由の一として、本件期首預金の外に昌美個人名義の銀行預金等一切なく、かつ別に蓄財した形跡がないが、同人の業界における地位などからみて、個人預金を有しないとは到底考えられない旨主張するが、昌美個人が本件期首預金を形成し得るほどの所得があったことを認むべき証拠が存しない以上、原告の右主張はもとより理由がない。
5 原告は、本件期首預金の一部には、昌美が所有していた名古屋市中区広小路通り七丁目の土地及び同区裏門前町一丁目の土地ならびに店舗の売却代金七、五〇〇万円が含まれている旨主張する。
よって検討するに、前掲甲第一二号証、成立に争いのない甲第三号証、第八号証、第一三ないし第一五号証、乙第八三四、第八三八、第八三九号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第八三五ないし第八三七号証、証人渡辺則是・同平川正雄の各証言、原告代表者奥村昌美本人尋問の結果(一部)ならびに弁論の全趣旨によれば、原告は昭和二五年六月頃訴外奥嶋商事株式会社より名古屋市中区広小路通り七丁目七番地所在の土地、建物を六〇〇万円で買入れ(但し、登記簿上の所有名義は昌美とした。)昭和二九年に右土地、建物を五、五六〇万円で他に売却したこと、原告は、昭和二五年六月昌美より名古屋市中区裏門前町一丁目五二番四、同番六八所在の土地、建物を簿外資金の中から一二五万五、〇〇〇円を出捐して買受け(但し、登記簿上の所有名義は昌美のままとし、移転登記は経由せず)、昭和三〇年四月右土地、建物を一、九四〇万円で他に売却したこと、右広小路通り七丁目七番地所在の土地、建物の売却代金は、原告が昭和二九年に取得した東京都中央区銀座八丁目一〇九番地の九の土地の買受資金(五、五〇〇万円)に充てられ、また、中区裏門前町一丁目五二番の各土地及び建物の売却代金は、原告が昭和三〇年に右中央区銀座の土地上に建築した建物(遊技場)の建設資金三、七〇〇万円の一部に充てられたこと、(広小路及び裏門前町の右土地、建物の所有権帰属については、昭和二八年ごろ原告に対し名古屋国税局係官が実施した税務調査において、原告は自己所有であることを認めていた)以上の各事実が認められ、他に右認定を左右すべき証拠はない。
なお、前掲甲第一三、第一四号証によれば、中区裏門前町一丁目五二番の四、六八の各土地は、従前の所有者訴外加藤某から、昌美に対し、昭和二九年五月一七日付売買を原因とする同日付の所有権移転登記が経由されていることが認められるが、前掲乙第八三六ないし第八三八号証に照らすと、昌美とその前主の売買契約は、昭和二五年六月以前になされていると推認することができるから、右登記簿上の売買日付の記載は、前記認定を左右するに足りる資料とはなし難い。
右認定事実によれば、名古屋市中区広小路通り七丁目の土地、建物及び同区裏門前町一丁目の土地ならびに店舗は、原告の所有であったのであり、しかも、その売却代金は、すでに費消され、本件期首預金の原資とはなっていないことが明らかである。
原告代表者奥村昌美本人尋問の結果中、右趣旨に反する部分はたやすく採用し難く、他に以上の認定を左右するに足りる証拠は存しない。
よって、原告の右主張は理由がない。
6 原告は、本件期首預金の中に昌美個人の表勘定(公表帳簿)上の給与が混入している旨主張する。
前掲乙第一号証中の昭和三六年六月から昭和三七年五月までの本店における売上除外に関する収支メモ(同号証の五、三三、三四、六二ないし七一頁)には、公表帳簿外の収入として昌美に対する給料(右期間中の合計四七八万六、五五六円)が計上されていることが認められるが、一方同メモの支出欄には、「本宅」分として六〇〇万円、「税金」分として一二六万五、二二〇円、「社長」分として五万円がそれぞれ計上されているところ、証人渡辺則是の証言によれば、これらはすべて昌美個人に支払われていることが認められるから、実質上は、右給料分を超える金員が昌美に支払われていることになるから、差引計算上昌美に対する給料名義の収入金が本件期首預金に含まれていないことは明らかである。
また原告は、本件期首預金中には、昌美個人の事業による収入、不動産売却等による収入、訴外第二物産株式会社からの売上除外金等が混入している旨主張し、原告代表者奥村昌美本人尋問の結果中には、右主張に副う部分が存するけれども、右供述部分を裏付ける証拠はなくたやすく措信し難い。
他に原告の主張を肯認すべき証拠はない。
7 原告は、本件期首預金中には昌美個人が受け取った訴外第二物産株式会社の解散による株主への剰余金二、〇〇〇万円が含まれている旨主張するが、右訴外会社が右剰余金を株主に支払ったことを認むべき証拠はないし、原告代表者奥村昌美本人尋問の結果によれば、昌美は右訴外会社から剰余金を受け取っていないことが認められるから、原告の右主張は採用しない。
8 原告は、本件期首預金が原告の簿外資産であるとすれば、当然簿外経費に費消されるべきであるところ、本件期首預金は簿外経費には一切使用されていない旨主張するが、前掲乙第一号証及び証人渡辺則是の証言によれば、簿外経費は原告の売上除外等によって得られた簿外資金によって賄われていることが認められるから、原告の右主張は理由がない。
9 原告は、本件期首預金は昭和四三ないし四五年度の三期にわたって解約され、被告税務署長のなした本件課税処分による納税のための資金として費消され、その時点において昌美個人よりの借入金として表勘定上処理されている旨主張し、原告代表者本人尋問の結果によれば、右主張事実が認められるけれども、右のような事後処理は、本件期首預金が簿外であるため、これを公表帳簿にのせるための便宜的な処理というべく、右処理がなされていることの一事をもって本件期首預金が昌美の個人資産であると即断するわけにはいかない。
10 原告は、本件期首預金はいわゆる時効預金であって、課税権が消滅している以上、その反射的効果として、本件期首預金の帰属に関する認定はなし得ない旨主張する。
しかしながら、国税通則法七〇条二項四号及び七二条に規定する除斥期間及び消滅時効は、課税庁が課税権及び徴収権を行使し得る期間を意味するにすぎない。
本件において、本件各係争年度において本件期首預金から発生する預金利息が原告の所得となるか否かを判断する前提として、本件期首預金が原告に帰属するか否かを判断する必要があり、そのためには除斥期間等を経過した本件期首預金の帰属について調査、認定をすることは何ら妨げなく、原告の右主張は採用し難い。
(三) 以上のとおりであって、本件期首預金は原告に帰属する旨の被告税務署長の認定は相当というべきである。
四 本件各係争年度における原告の簿外利益
(損益計算による簿外利益の算定)
(一) 加算項目
1 売上計上もれ
前掲乙第一、二号証、第八二九ないし第八三二号証、第八四二号証の一ないし三、第八四三号証の一・二、証人渡辺則是・同藤枝茂・同奥村勲・同谷千里の各証言ならびに原告代表者奥村昌美本人尋問の結果によれば、本件各係争年度における原告の売上計上もれ金額の内訳は、別表(三)の「売上計上もれ」欄記載のとおりであり、第一ないし第三年度につき同欄記載の各既更正分を差引くと本件各係争年度における原告の売上計上もれ金額は次のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。
第一年度 一億〇、四二五万〇、五三九円
第二年度 一億一、五九五万五、四二三円
第三年度 九、七七三万一、九一七円
第四年度 九、七八二万円
第五年度 六、九七六万円
2 雑収入計上もれ
(イ) 本店分
前掲乙第一号証、証人渡辺則是の証言によれば、本件各係争年度における原告の本店分の雑収入計上もれ金額は次のとおりであること(内訳は別表(三)の「雑収入計上もれ」(本店分)欄記載のとおり)が認められ、これに反する証拠はない。
第一年度 二一八万四、七九六円
第二年度 〇円
第三年度 一一四万六、五九四円
第四年度 三六万〇、三九八円
第五年度 四五万六、六〇〇円
(ロ) 東京支店分
前掲乙第一号証、第二三六号証、第五八二号証、第八〇九号証、第八四二号証の一ないし三、証人藤枝茂の証言によれば、原告の東京支店従業員佐藤有代は、原告の経営にかかる麻雀業による収入の一部を、公表帳簿に計上せず、また谷にも報告することなく、三井銀行新橋支店の平野洋子名義の普通預金口座に預入れていたこと、右預金額は月額約四万円であったこと、その他第三、第五年度における原告の東京支店の公表帳簿外の雑収入は、第三年度七〇万〇、四三九円、第五年度一二万五、四〇六円であったこと、右各金額に前記平野洋子名義の第三、五年度の普通預金高を加算すると、東京支店における第三年度の雑収入計上もれ金額は一一四万四、四三九円、第五年度の同金額は三八万四、八〇三円となること、第一、第二、第四年度については、第三、第五年度におけるような試算表(乙第八四二号証の二・三)が存せず、右各年度については、前記平野洋子名義の普通預金の外には、原告の公表帳簿外の雑収入を実額により把握できなかったこと、そこで、被告税務署長は、第三年度の公表帳簿外の前記雑収入(七〇万〇、四三九円)が東京支店における同年度の売上計上もれ金額(四、五三五万円)の約一・五パーセントに当ることから、前記平野洋子名義の普通預金額とは別に、第一、第二、第四年度の計上もれ雑収入金額として、それぞれ該当年度の売上計上もれ金額の一パーセントを公表帳簿外の雑収入が存するものと推計し、右各年度の前記普通預金額を加算した金額を第一、第二、第四年度の雑収入計上もれ分とし、第一年度四九万八、二六二円、第二年度六一万二、〇〇〇円、第四年度七三万円と算定したこと、以上の各事実が認められ、これに反する証拠はない。
右のとおり、東京支店における第一、第二、第四年度については、平野洋子名義の普通預金の外の雑収入は実額により把握し得る資料が存しなかったのであるから、推計による算定の必要性が存したものというべきであり、また、被告税務署長のした右推計の方法、基準とすべき数額の把握は合理的であるというべきである。
そうすると、本件各係争年度における原告の雑収入計上もれ金額は次のとおりである。
第一年度 二六八万三、〇五八円
第二年度 六一万二、〇〇〇円
第三年度 二二九万一、〇三二円
第四年度 一〇九万〇、三九八円
第五年度 八四万一、四〇三円
3 預金利息計上もれ
前掲乙第一、第二号証、第七ないし第八一七号証(枝番を含む。但し、第八九、第二三六、第五八二、第八〇九号証を除く。)、第八一八号証の一ないし三、第八二〇号証の一ないし三、第八二一号証、第八二五号証の一ないし九、第八四五ないし第八四八号証、第八五二号証の一・二、証人渡辺則是・同渡辺正司・同藤枝茂の各証言によれば、本件各係争年度における原告の預金利息計上もれ金額は次のとおりであること(内訳は別表(三)の「預金利息計上もれ」欄記載のとおり)が認められ、これに反する証拠はない。
第一年度 一、二三五万七、〇九二円
第二年度 一、九九三万三、三六三円
第三年度 二、一六六万〇、六〇七円
第四年度 二、三〇一万二、九七六円
第五年度 二、六三九万一、八一一円
4 支払地代不当
支払地代不当金額は、被告税務署長主張のとおり(第一年度四二万三、二五二円、内訳は別表(三)の「支払地代不当」欄記載のとおり)であることは当事者間に争いがない。
5 固定資産譲渡益計上もれ
前掲乙第一号証中の第一年度の公表帳簿外収支メモ(二頁)の収入欄の昭和三八年二月分に、「建物」として四六万三、〇〇〇円が計上されていることが認められるところ、本件全証拠によるも右「建物」の具体的内容を特定することはできないが、(イ)成立に争いのない乙第八三三号証(第一年度の公表決算報告書中の雑収入明細書)中に建物取り壊しによるものと推認される古瓦の売却代金が雑収入として計上されていること、(ロ)証人渡辺則是の証言によれば、勲は本件調査当時名古屋国税局係官に対し、右四六万三、〇〇〇円は譲渡益である旨申述していることが認められること、(ハ)前記収支メモ(乙第一号証の二頁)の支出欄には建物新築に要したものと推認される費用が計上されていること、以上の諸事実を考え合わせると、右四六万三、〇〇〇円は、第一年度における原告所有建物ないしはその廃材の売却益であると認めるのが相当である。
他に右認定を左右するに足りる証拠はなく、「建物」の特定がなされていない以上右金額を計上もれ分とすることは不当である旨の原告の主張は採用し難い。
6 交際費の損金不算入額
前掲乙第一号証、証人渡辺則是の証言ならびに弁論の趣旨によれば、被告税務署長は、本件各係争年度における原告の公表帳簿上及び公表帳簿外の交際費を基に、租税特別措置法六二条(第一、第二年度については、昭和三六年法第四〇号改正前のもの、第三年度については昭和三九年法第二四号改正前のもの、第四、第五年度については昭和四〇年法第三二号改正前のもの)を適用して交際費の損金不算入額を算定したこと(内訳については別表(三)の「交際費の損金不算入額」欄記載のとおり)、右損金不算入額から第一、第二年度につき同欄記載の既更正分を差引くと、本件各係争年度における交際費の損金不算入額は次のとおりであることが認められる。
第一年度 三七万七、七九八円
第二年度 四五万五、七七六円
第三年度 三七万四、四二九円
第四年度 八四万二、三八八円
第五年度 一二万〇、二〇〇円
7 貸付金利息計上もれ
証人渡辺則是の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昌美、訴外小倉昭子、訴外奥村豊、訴外日本電子工業株式会社、訴外クラウン産業株式会社に対して貸付金を有していたが、その利息を公表帳簿に計上していなかったこと、しかして被告税務署長は、当時の通達に基づいて年一割の割合により貸付金利息を算定したが、その内訳は別表(三)の「貸付金利息計上もれ」欄記載のとおりであることが認められるところ、右利率は不相当であるとは認め難い。
そうすると、本件各係争年度(但し、第一年度を除く。)における貸付金利息計上もれ金額は次のとおりである。
第二年度 五九万七、二八〇円
第三年度 二四四万三、六五六円
第四年度 三〇三万〇、一六一円
第五年度 四二九万二、八三五円
8 受取配当計上もれ
受取配当金計上もれ金額は、被告税務署長主張のとおり(第二年度三一万五、〇〇〇円、第三年度二二万五、〇〇〇円、第四年度二〇万円、第五年度一八万円)であることは当事者間に争いがない。
9 受取割引料計上もれ
受取割引料計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第二年度八〇万二、八五〇円、訴外日綿実業株式会社振出の約束手形の割引料)であることは当事者間に争いがない。
10 商品取引益計上もれ
商品取引益計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第四年度一、二〇四万八、〇〇〇円)であることは当事者間に争いがない。
11 公課否認(前期損金算入未納事業税の当期益金加算もれ)
第四年度における前期損金算入未納事業税の当期益金加算もれ金額が被告主張のとおり(一万〇、四二〇円)であることは当事者間に争いがない。
ところで、後記((二)減算項目10)認定のとおり、第四年度の所得金額の計算上未納事業税額一、一二四万二、四〇〇円が損金計上に認容されたが、成立に争いのない乙第八四一号証及び証人渡辺則是の証言によれば、右金額のうち一二〇万〇、四八〇円は昭和四一年三月一五日付再更正処分により増加した第三年度の所得金額に対応する未納事業税であること、原告が第五年度において諸税公課として納付し、損金に計上した事業税のうち第三年度分にかかる事業税は、第四年度において損金に認容された右一二〇万〇、四八〇円を含む一二九万八、六一〇円であること、しかして右一二〇万〇、四八〇円は第四、第五年度の所得金額の計算上いずれの年度においても損金として計上された結果、同金額が二重に損金となるため、被告は第五年度において損金に計上した一二〇万〇、四八〇円の損金算入を否認し、第五年度の所得金額の計算上益金に加算したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、被告税務署長が右一二〇万〇、四八〇円につき第五年度の所得金額の計算上益金に加算したことは正当というべきである。
12 有価証券売却益計上もれ
有価証券売却益計上もれ金額が被告主張のとおり(第五年度一三五万七、八五〇円)であることは当事者間に争いがない。
13 以上1ないし11によれば、加算項目の合計金額は次のとおりである。
第一年度 一億二、〇五五万四、七三九円
第二年度 一億三、七八六万八、八四二円
第三年度 一億二、五五二万九、四九二円
第四年度 一億三、八〇五万四、三四三円
第五年度 一億〇、四一四万四、五七九円
(二) 減算項目
1 給与・賞与の計上もれ
(1) 第三、第五年度の給与・賞与計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第三年度一、二二六万六、六六三円、第五年度七六六万一、七六三円)であることは当事者間に争いがない。
(2) 前掲乙第一号証及び証人渡辺則是の証言によれば、本店における給与・賞与計上もれ金額は、第一年度八七〇万八、二四六円、第四年度七一一万九、一五八円、第一年度源泉所得税の原告負担分は四八万九、七〇〇円であることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
(3) 成立に争いのない乙第八四〇号証及び証人渡辺則是の証言によれば、本店における第二年度の簿外経費(給与・賞与、接待交際費、雑費)については、実額を把握し得る資料が存在しなかったため、被告税務署長は次のとおり右簿外経費を算定したことが認められる。
すなわち、第二年度の本店期末簿外純資産額一億七、四一五万一、一四二円から同期首簿外純資産額一億二、八二九万五、三〇七円を控除して、本店における第二年度の簿外利益四、五八五万五、八三五円(交際費の損金不算入額、減価償却費計上もれ、未納事業税認容の計算前の簿外利益、以下同じ)を算定し、第二年度の本店の売上計上もれ七、一七〇万〇、四二三円及び預金利息計上もれ七三四万一、一一四円の合計額七、九〇四万一、五三七円から、右簿外利益を控除した残額三、三一八万五、七〇二円を簿外総経費とみなした。そして、更に簿外経費の各科目(雑費を除く)の金額は、本店における第一年度の簿外総経費に占める各簿外経費の構成比率を右簿外総経費に乗じて算出し、雑費は右簿外総経費から右各科目の金額の合計額を控除して算出した。
右算出の基礎となる第二年度の本店の期首簿外純資産額一億二、八二九万五、三〇七円の内訳は、次のとおりである。
現金二二二万〇、三六五円(奥村勲保管分別口出納帳有高四九万七、〇八五円、利息現金有高一七二万三、二八〇円の合計額)、銀行預金一億一、五〇三万二、六三三円、仮払金一一二万二、九一〇円、土地購入立替金一五九万三、四六〇円(別表(三)の「土地購入立替金三五九万三、四六〇円」の一部)、建物二六八万五、二〇〇円、公表帳簿外仮受金過大計上八四万〇、七三九円、関連会社等貸付金四〇〇万円(別表(二)の「関連会社等貸付金九五〇万円」の一部で、訴外株式会社中部財界社社長川村勲に貸付けた金額)、社長貸付金八〇万円、以上の合計一億二、八二九万五、三〇七円。
同年度の本店期末簿外純資産額一億七、四一五万一、一四二円の内訳は、次のとおりである。
現金二六三万三、五〇六円(奥村勲保管分別口出納帳有高三六万九、〇八〇円、同利息現金有高二二六万三、四二六円の合計額)、銀行預金一億一、八三三万三、六〇一円、社長貸付金四八五万円(訴外株式会社川本製作所の有価証券購入代金一五万円、名古屋市千種区唐山町所在土地購入資金貸付金三〇〇万円、同土地上の建物新築代金貸付金九〇万円、第一年度からの繰越貸付金八〇万円の合計額)、仮払金一一二万二、九一〇円、土地購入立替金二、一五九万三、四六〇円(訴外奥村不動産株式会社に対する名古屋市千種区唐山町所在の土地購入代金立替払金二、〇〇〇万円と第一年度から繰越した土地購入立替金額一五九万三、四六〇円の合計額)、建物七六万九、一六〇円(第一年度から繰越した建物金額二六八万五、二〇〇円から既更正分一九一万六、〇四〇円を差引いた金額で減価償却費控除前の建物金額)、公表帳簿外仮受金過大計上二二四万七、一二二円、損金計上役員賞与三六〇万二、三八三円(役員賞与と認定された経緯は、後述のとおり)、東京支店へ送金した金額二、〇〇〇万円、関連会社等貸付金四〇〇万円、以上の合計一億七、九一五万一、一四二円から訴外奥村遊機株式会社からの仮受金五〇〇万円を控除した金額一億七、四一五万一、一四二円。
次に、第一年度の簿外総経費は簿外収支メモ(前掲乙第一号証)等を基に、二、九七九万六、五〇九円(内訳接待交際費一三四万五、三二〇円、顧問料四六五万五、〇〇〇円、景品仕入代九八三万円、雑費三三一万八、二四三円、給与三五九万九、三八一円、賞与五〇四万八、五六五円、退職金二〇〇万円の合計額)と認定し、右簿外各経費の構成比率を、接待交際費〇・〇四六、顧問料〇・一五、給与〇・一二一、賞与〇・一七、雑費〇・五一三と算定した。しかして、被告税務署長は、本店における第二年度の簿外経費につき、次のとおり算定した。
イ 給与・賞与 九六五万七、〇三九円
(33,185,702×(0.12+0.17))
ロ 顧問料 四九七万八、〇〇〇円
(33,185,702×0.15)
ハ 接待交際費 一五二万六、五四二円
(33,185,702×0.046)
ニ 雑費 一、七〇二万四、一二一円
(33,185,702-(イ+ロ+ハ))
以上認定のとおり、本店における第二年度の簿外経費は総経費及びその明細ともに実額により把握し得る資料は存在しなかったのであるから、右簿外経費については、前記のとおり推計により算出する必要があったものというべきである。
ところで、被告税務署長は、本店の第二年度における売上計上もれ金額と預金利息計上もれ金額の合算額から、右年度に形成された本店の純資産増加額を控除した金額をもって、右年度における簿外経費と推計したものであるところ、右推計の基礎資料となった(イ)本店における第二年度の期首・期末の純資産額及びその内訳については、後記(資産負債増減法による簿外利益の算定)において認定のとおり、(ロ)第一年度の簿外経費については、前記(2)及び後記2.3.5.6.7において認定のとおり、(ハ)第二年度における売上計上もれ金額、預金利息計上もれ金額については前記(一)加算項目の1.3において認定のとおり、いずれも正当であると認められる。右のような簿外経費の推計方法は合理的な方法と認められ、しかも第二年度における前記簿外総経費の売上除外金額に対する割合四六・二八パーセントは他の年度における右割合(第一年度三八・七七パーセント、第三年度二九・七パーセント、第四年度二七・七パーセント、第五年度三一パーセント)に比して高率なものであって、原告に特段不利益なものではないと認められるのであって、被告税務署長の推計にかかる本店の第二年度の簿外経費金額はいずれも正当であるというべきである。
(4) 証人藤枝茂・同渡辺則是の各証言によれば、東京支店における第一、第二、第四年度の簿外経費について実額を把握し得る資料が存しなかったため、前掲乙第八四二号証の二(第三年度の簿外試算表)によって東京支店における第三年度の簿外売上げに対する各簿外経費の割合及び簿外経費の合計額の割合(給与・賞与〇・〇六五、接待交際費〇・〇一七、修繕費〇・〇〇〇八、合計率〇・二六五)を算出し、給与・賞与、接待交際費及び修繕費の各比率を第一、第二、第四年度の簿外売上げ(第一年度二、七四〇万九、八〇〇円、第二年度四、四二五万五、〇〇〇円、第四年度四、七一九万円)に乗じて各年度の右各簿外経費を算出し、雑費については、簿外経費の合計額の比率(〇・二六五)を第一、第二、第四年度の簿外売上げに乗じて各年度の簿外経費の総額を算出(第一年度七二六万三、五九六円、第二年度一、一七二万七、五九六円、第四年度一、二五〇万五、三五〇円)し、その総額から雑費以外の簿外経費の合計額(第一年度二二六万九、五三〇円、第二年度三六六万四、三二〇円、第四年度四三三万九、九八二円)を控除してそれぞれ算出したこと、しかして、被告税務署長は東京支店の簿外諸経費につき次のとおり推計したことが認められる。
<省略>
ところで、右認定のとおり、東京支店における第一、第二、第四年度の簿外経費については、これを実額により把握し得る資料が存在しなかったのであるから、右数額につき推計の必要性があったものと認めるべきであり、右推計の方法も、算出の基礎となる簿外売上げは実額により、比率は他年度における実額によりなされているから合理的なものと認められ、被告税務署長推計にかかる右各簿外経費額は正当というべきである。
(5) 以上によれば、本件各係争年度における原告の給与・賞与計上もれ金額は次のとおりである。
第一年度 一、〇九七万九、五八三円
第二年度 一、二五三万三、六一九円
第三年度 一、二二六万六、六六三円
第四年度 一、〇六一万九、一五八円
第五年度 七六六万一、七六三円
2 顧問料計上もれ
本件各係争年度における原告の顧問料計上もれ金額が次のとおりであることは当事者間に争いがない。
第一年度 四六五万五、〇〇〇円
第二年度 四九七万八、〇〇〇円
第三年度 三八〇万円
第四年度 三二八万円
第五年度 二九七万円
3 接待交際費計上もれ
(1) 前掲乙第一号証及び証人渡辺則是の証言によれば、本店における第一、第三、第四、第五年度の接待交際費計上もれ金額は、それぞれ一三四万五、三二〇円、八六万三、二九一円、一〇七万三、一九八円、三九万〇、一二七円(各年度の月別内訳は別表(三)の「接待交際費計上もれ」(本店分)欄記載のとおり)であることが認められ、本店における第二年度の接待交際費計上もれ金額は前1項掲記のとおり一五二万六、五四二円である。
(2) 前掲乙第一号証、第八四二号証の一ないし三、証人藤枝茂の証言によれば、東京支店における第三、第五年度の接待交際費計上もれ金額はそれぞれ七六万八、八八一円、七五万八、六一一円であることが認められる。
そして、前1項掲記のとおり、東京支店における第一、第二、第四年度の接待交際費計上もれ金額は次のとおりである。
第一年度 四六万五、九六六円
(第一年度の簿外売上 27,409,800×0.017)
第二年度 七五万二、三三六円
(第二年度の簿外売上 44,255,000×0.017)
第四年度 八〇万二、二三〇円
(第四年度簿外売上 47,190,000×0.017)
(3) 以上によれば、本件各係争年度における原告の接待交際費計上もれ金額は次のとおりである。
第一年度 一八一万一、二八六円
第二年度 二二七万八、八七八円
第三年度 一六三万二、一七二円
第四年度 一八七万五、四二八円
第五年度 一一四万八、七三八円
4 修繕費計上もれ
第三、第五年度における原告の修繕費計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第三年度三万八、一四九円、第五年度一七万七、七六〇円)であることは当事者間に争いがない。
前1項掲記のとおり、原告の東京支店における第一、第二、第四年度の修繕費は次のとおりである。
第一年度 二万一、九二七円
第二年度 三万五、四〇四円
第四年度 三万七、七五二円
原告は、修繕費という特殊な科目を経費率を乗じて算出する方法は不当である旨主張するが、他に修繕費を把握し得る適切な方法がない本件においては、右推計による修繕費の算出はもとより不当とはいえず、原告の右主張は採用の限りではない。
5 雑費計上もれ
(1) 前掲乙第一号証及び証人渡辺則是の証言によれば、本店における雑費計上もれ金額(但し、第二年度分を除く)は、次のとおりであることが認められ(月別内訳は別表(三)の「雑費計上もれ」(本店分)欄記載のとおり)、他にこれに反する証拠はない。
第一年度 三二一万八、五〇三円
第三年度 一六一万四、三一九円
第四年度 二五三万四、七九四円
第五年度 一三六万五、〇九九円
そして、本店における第二年度の雑費計上もれ金額が一、七〇二万四、一二一円(総経費三、三一八万五、七〇二円-(給与・賞与九六五万七、〇三九円+顧問料四九七万八、〇〇〇円+接待交際費一五二万六、五四二円))であることは前1項掲記のとおりである。
(2) 前掲乙第一号証、第八四二号証の一ないし三、証人藤枝茂の証言ならびに弁論の全趣旨によれば、東京支店における雑費計上もれ金額は、第三年度七四三万〇、七四八円、その他認容額六〇万円、合計八〇三万〇、七四八円、第五年度四二五万三、五一六円(雑経費と三井銀行平野洋子名義普通預金解約分の合計額)であることが認められ、他にこれに反する証拠はない。
そして、前1項掲記のとおり、東京支店における第一、第二、第四年度の雑費計上もれ金額は次のとおりである。
第一年度 四九九万四、〇六六円
(簿外経費総額7,263,596円-雑費以外の簿外経費2,269,530円)
第二年度 八〇六万三、二七六円
(簿外経費総額11,727,596円-雑費以外の簿外経費3,664,320円)
第四年度 八一八万五、三六八円
(簿外経費総額12,505,350円-雑費以外の簿外経費4,339,982円)
(3) 右(1)、(2)によれば、本件各係争年度における原告の雑費計上もれ金額は次のとおりである。
第一年度 八二一万二、五六九円
第二年度 二、五〇八万七、三九七円
第三年度 九六四万五、〇六七円
第四年度 一、〇七〇万〇、一六二円
第五年度 五六一万八、六一五円
6 景品仕入代計上もれ
景品仕入代計上もれ金額は被告税務署長主張のとおり(第一年度九八三万円)であることは当事者間に争いがない。
7 退職金計上もれ
退職金計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第一年度三、二〇〇万円、第二年度七〇〇万円、第四年度一五〇万円)であることは当事者間に争いがない。
8 減価償却費計上もれ
減価償却費計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第一年度一一万四、八〇〇円、第二年度一一万二、一三六円、第三年度五万三、八七五円、第四年度四万九、四五八円、第五年度五万四、八一五円)であることは当事者間に争いがない。
9 有価証券売却損計上もれ
有価証券売却損計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第一年度八二六万三、五四八円、第五年度一四七万三、五八〇円、第五年度分の内訳は別表(三)の「有価証券売却損計上もれ」欄記載のとおり)であることは当事者間に争いがない。
10 未納事業税認容
証人渡辺則是の証言によれば、昭和四一年三月一五日付再更正処分により税額が増額されたことに伴い、事業税法に基づき課税される事業税として損金に計上される金額は次のとおりであることが認められ(内訳は別表(三)の「未納事業税認容」欄記載のとおり)、他にこれに反する証拠はない。
第二年度 五二六万七、七五〇円
第三年度 九一七万三、七七〇円
第四年度 一、一二四万二、四〇〇円
第五年度 一、一八四万九、七三〇円
11 弔慰金計上もれ
弔慰金計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第三年度五〇〇万円)であることは当事者間に争いがない。
12 支払利息計上もれ
支払利息計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第三年度二三万六、八〇〇円)であることは当事者間に争いがない。
13 広告費計上もれ
広告費計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第五年度四〇〇万円)であることは当事者間に争いがない
14 商品取引損計上もれ
商品取引損計上もれ金額が被告税務署長主張のとおり(第五年度三、八九四万二、八〇〇円)であることは当事者間に争いがない。
15 以上1ないし14によれば、減算項目の合計金額は次のとおりである。
第一年度 七、五八八万八、七一三円
第二年度 五、七二九万三、一八四円
第三年度 四、一八四万六、四九六円
第四年度 三、九三〇万四、三五八円
第五年度 七、三八九万七、八〇一円
(三) 以上によれば、本件各係争年度における簿外利益金額は次のとおりである。
第一年度 四、四六六万六、〇二六円
第二年度 八、〇五七万五、六五八円
第三年度 八、三六八万二、九九六円
第四年度 九、八七四万九、九八五円
第五年度 三、〇二四万六、七七八円
(資産負債増減法による簿外利益の算定)
(一) 資産項目
1 現金
前掲乙第一、第二号証、第三号証の一・二、第八四二号証の一ないし三、証人渡辺則是・同藤枝茂の各証言によれば、本件各係争年度期末における原告の簿外現金は次のとおりであること(内訳は別表(三)の「現金」欄に記載のとおり)が認められ、他に右認定を左右すべき証拠はない。
第一年度 二二二万〇、三六五円
第二年度 五二三万七、六二二円
第三年度 七五〇万二、一八六円
第四年度 六五二万一、三六七円
第五年度 八五一万四、二九八円
2 銀行預金
前掲乙第一、第二号証、第三号証の一・二、第七ないし第八一八号証(枝番を含む)、第八二〇号証の一ないし三、第八二一号証、第八二五号証の一ないし九、第八四五ないし第八四八号証、第八五二号証の一・二、証人渡辺則是・同藤枝茂・同渡辺正司の各証言によれば、本件各係争年度期末における原告の簿外預金金額は次のとおりであること(内訳は別表(三)の「銀行預金」欄に記載のとおり)が認められ、他に右認定を左右すべき証拠はない。
第一年度 三億六、三一一万一、一二八円
第二年度 四億〇、六五六万二、四九二円
第三年度 四億六、六七六万四、〇〇三円
第四年度 五億三、五八二万九、七一三円
第五年度 五億五、九九二万二、六九五円
3 関連会社等貸付金
本件各係争年度期末における原告の公表帳簿外の関連会社等貸付金が次のとおりであることは当事者間に争いがない。
第一年度 九五〇万円
第二年度 九九二万五、〇〇〇円
第三年度 九五〇万円
第四年度 七七七万円
第五年度 七五四万六、〇〇〇円
4 社長貸付金
原告の昌美に対する第一年度分の公表帳簿外貸付金が八〇万円であることは当事者間に争いがない。
前掲乙第一、第二号証、第八四〇号証、第八五五号証の一ないし三、成立に争いのない甲第二号証の二ないし五、第一〇、第一一号証、証人渡辺則是・同藤枝茂・同谷千里の各証言によれば、第二ないし第四年度期末における原告の昌美に対する簿外貸付金金額は次のとおりであることが認められ、他に右認定を左右すべき証拠はない。
第二年度 一、六八五万円
内訳 (イ) 訴外奥村不動産株式会社の千種区唐山町所在
土地購入資金 三〇〇万円
(ロ) 右土地上の建物新築代金 九〇万円
(ハ) 東京都千代田区三番所在
土地購入資金 一、〇〇〇万円
(ニ) 読売カントリークラブ会員券取得費 二〇〇万円
(ホ) 第一年度からの繰越金 八〇万円
外
第三年度 三、五九八万二、七六九円
内訳 (イ) 大熱海カントリークラブ会員券取得費 三五万円
(ロ) 三和自動車株式会社株式払込金 一、三五〇万円
(ハ) 千種区唐山町所在建物新築代金 五二八万二、七六九円
(ニ) 第二年度からの繰越金 一、六八五万円
第四年度 四、六二〇万八、八四八円
内訳 (イ) クラウン産業株式会社株式払込金 五〇〇万円
(ロ) 三和自動車株式会社貸付金 二六〇万円
(ハ) 土地取得代金 二〇七万六、〇七九円
(東京支店分は右のうち 一四四万六、〇七九円)
(ニ) 第三年度からの繰越金 三、五八八万二、七六九円
外
第五年度 五、〇〇三万八、八四八円
内訳 (イ) 三和自動車株式会社貸付金 一〇〇万円
(ロ) 土地取得代金 二八三万円
(ハ) 第四年度からの繰越金 四、六二〇万八、八四八円
5 仮払金
前掲乙第一号証及び証人渡辺則是の証言によれば、本件各係争年度期末における簿外仮払金(勲保管分の別口出納帳支出分)は次のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。
第一年度 一一二万二、九一〇円
第二年度 一一二万二、九一〇円
第三年度 一二五万三、九一〇円
第四年度 二〇七万九、九一〇円
第五年度 一三一万三、九一〇円
6 土地購入立替金
土地購入立替金について、被告税務署長主張額のうち、第二年度二、〇〇〇万円、第三ないし第五年度各二、一〇〇万円については当事者間に争いがなく、前掲乙第一、第二号証及び証人渡辺則是の証言によれば、原告は、第一年度中に訴外奥村不動産株式会社が名古屋市千種区東山元町四丁目五三番の土地を購入した際に三五九万三、四六〇円(うち二〇〇万円は東京支店分)を簿外資金により立替払いしたこと、右立替金が第五年度期末まで返済されることなく、引き継がれたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
7 関連会社立替金
第一年度期末における原告の関連会社に対する簿外立替金が九六万四、八八〇円(内訳、三和自動車株式会社に対する貸付金七九万四、八八〇円、訴外奥村不動産株式会社に対する貸付金一七万円)であること、及び第四、第五年度期末における原告の関連会社に対する簿外立替金については、被告税務署長主張額(各一四一万四、八八〇円)中第一年度分と同額の九六万四、八八〇円については当事者間に争いがなく、前掲乙第二号証及び証人藤枝茂の証言によれば、第四、第五年度については、右の外簿外立替金四五万円(内訳、三和自動車株式会社に対する貸付金一五万四、〇〇〇円、訴訟奥村不動産株式会社に対する貸付金二九万六、〇〇〇円)の存することが認められ、他に右認定を左右すべき証拠はない。
8 商品取引未収金
第四年度期末における原告の簿外商品取引未収金として五九五万円が存したことは当事者間に争いがない。
9 商品取引保証金
原告の簿外商品取引保証金として、第四年度期末に一、六〇〇万円、第五年度期末に一、九〇〇万円がそれぞれ存したことは当事者間に争いがない。
10 有価証券
前掲乙第八五五号証及び証人渡辺則是の証言によれば、第一ないし第四年度各期末において、原告の簿外有価証券として、岡三証券株式会社発行のオープン投資信託五、〇〇〇口(五一八万八、〇〇〇円)が存したこと、前掲乙第二号証及び証人藤枝茂の証言によれば、第五年度期末において、原告の簿外有価証券として、田熊汽缶株式会社の株式八万五、〇〇〇株(六〇三万六、五〇〇円)が存したことがそれぞれ認められ、他に右認定を左右すべき証拠はない。
11 建物
前掲乙第一号証、第三号証の二、証人渡辺則是・同藤枝茂の各証言ならびに弁論の全趣旨によれば、原告は昭和三七年二月に簿外資金により建物(寄宿舎)を取得したが、右取得価格から減価償却をした第一年度期末における建物価額は二六八万五、二〇〇円であったこと、そして第二年度以降についても年次減価償却をし、また既更正額を控除すると、第二年度以降の期末における右建物の価額は、第二年度六五万七、〇二四円、第三年度六〇万三、一四九円、第四年度五五万三、六九一円、第五年度四九万八、八七六円であること、東京支店の簿外改造費が第三ないし第五年度各期末においてそれぞれ四五万六、五五〇円であったことが認められ、他に右認定を左右すべき証拠はない。
そうすると、本件各係争年度期末の簿外資産に計上すべき「建物」価額は次のとおりである。
第一年度 二六八万五、二〇〇円
第二年度 六五万七、〇二四円
第三年度 一〇五万九、六九九円
第四年度 一〇一万〇、二四一円
第五年度 九五万五、四二六円
12 出資金
前掲乙第三号証の二及び証人渡辺則是の証言によれば、原告は第一年度中において、訴外奥村不動産株式会社に対し増資払込金として、簿外資金から一、一二〇万円を払込んだこと、そして、右払込金は第五年度期末まで引継がれたことが認められ、ごれに反する証拠はない。
13 供託金
第三ないし第五年度各期末において、原告の公表帳簿外の供託金として各二九万円が存したことは当事者間に争いがない。
14 公表帳簿仮受金過大計上
証人渡辺則是の証言によれば、原告は簿外預金利息の一部を仮受金として計上していたこと、その金額は次のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。
第一年度 八四万〇、七三九円
第二年度 二二四万七、一二二円
第三年度 三六四万九、〇三九円
第四年度 三六四万九、〇三九円
第五年度 三八七万二、四五七円
15 器具備品
前掲乙第二号証及び証入藤枝茂の証言によれば、原告の簿外資金購入による東京支店備付の備品(絵画)の価額は次のとおりであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
第三年度 一〇万円
第四年度 一三万円
第五年度 一三万円
16 損金計上役員賞与
(1) 前掲乙第一号証及び証人渡辺則是の証言によれば、原告は、第一年度中において、昌美に対し、簿外資金から「社長渡し」、「本宅渡し」、「税金」等の名目で二一七万五、八〇一円を支給したことが認められ、これに反する証拠はない。
被告税務署長は、右支給額を役員賞与と認定し、同年度期末の簿外資産に計上しているが、正当というべきである。
(2) 第二年度における認定賞与中三六〇万二、三八三円について
前掲甲第二号証の二、第三号証、第一〇、第一一号証、成立に争いのない甲第七号証、証人奥村勲・同渡辺則是の各証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
第二年度分につき、被告税務署長が、昭和四三年七月九日付でなした更正処分に対する原告の異議申立は、同年一〇月二九日付で棄却されたことは、前記のとおりであるが、右棄却決定の理由中において「原処分が認定賞与とした金員のうち四二〇万円は、唐山町の昌美所有建物取得代金として、簿外から支出されたとの原告の主張を認め、四二〇万円に対する認定賞与処分を取り消し、これを昌美に対する貸付金と認定する。」旨説示した。
そして、同日付で被告税務署長は、第二年度につき再更正処分をなし、これに対しなされた審査請求を棄却した本件裁決は、理由中において、「第二年度における唐山町の昌美所有建物に対する別途支出金額(簿外支出金額)は審査請求人主張のとおり九〇万円と認められ、従って、原処分の認定した貸付金四二〇万円中三三〇万円は過大であると認める。しかし、右三三〇万円は昌美に支給したものと認められるので、これを昌美に対する認定賞与とする。」旨説示した(本件裁決における右説示は、審査請求趣意書中における第二年度における前記建物に対する簿外からの支出金は九〇万円である旨の原告の主張と、これを証する勲作成の唐山町建物増築支払内訳と題する書面(甲第一〇号証)の記載に基づきなされたものと思われる。なお、これより先、前記異議申立時において原告側は勲作成のメモ(甲第一一号証)に記載されている「建物四二〇万円」の文言は、第二年度における唐山町の昌美所有建物に対する簿外支出金を示すと主張していた形跡があり、前記異議決定は、この主張を右メモにより全部認めたところ、審査請求時に、原告は右主張を九〇万円に変更し、本件裁決は、右主張を認め、その理由中に、前記のとおりの説示をなしたことになる)。
被告税務署長は、本件裁決後再調査の結果、本件裁決の説示した昌美に対する認定賞与三三〇万円の正確な数字は先に認定した第二年度における推計による簿外経費の算定の前提となる資産負債増減法による簿外利益の算定及び損益計算の関係上三六〇万二、三八三円と認定した。
以上の認定の趣旨に反する証人奥村勲の証言部分はたやすく信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。
右事実によれば、第二年度における唐山町所在昌美所有建物に対する簿外支出金は九〇万円であると認められるところ、本件裁決は、前記のとおり四二〇万円から右九〇万円を控除した三三〇万円は、昌美に支給されたものと認め、これを認定賞与としているが、このように認定した根拠については、何ら説示するところがないから、右三三〇万円が第二年度において、建物所得費以外に簿外から昌美に支出された事実が存するか否かが問題となるわけである(唐山町所在建物の取得費(正確には、新築代金)については、前記4掲記のとおり第二年度に九〇万円、第三年度に五二八万二、七六九円が、社長貸付金として計上処理されている)。
そこで考えるに、第二年度における原処分(前記異議申立の対象となった処分)は、第二年度において、昌美に簿外から四二〇万円が支出されたと認め、これを認定賞与としていたことは前記のとおりであるところからすると、本件裁決が、この内九〇万円を昌美に対する建物取得費として貸付金に計上し、残りの三三〇万円を認定賞与としたのは、三三〇万円が昌美に支出されたことを証する資料に基づいてなされたものと推認できる。
この資料が、具体的にいかなる資料であったかは、分明でないが、原告側における異議申立時と審査請求時における建物取得費に関する主張の変更は、原告側において昌美に対する簿外からの支出金の使途についての計理上の処理が極めて粗雑であったことを物語る証左ともいうべきであること、これに加えて、原告が昌美の経営にかかる同族会社であること、前掲乙第一、第二号証、第八四二号証の一ないし三により認められる次の事実、即ち、第二年度を除く本件各係争年度における昌美に対する簿外支出金は、極めて多額であり、従って昌美に対する簿外支出は極めて容易に行われ得る会計上の仕組であったことが推認できること、ならびに、先に認定したとおり、第二年度において損金として認容した簿外経費は、すべて推計の結果であり、その簿外経費率は、四六・二パーセントという高率を示しており、これは、同年度の推計による簿外経費は、客観的にみれば、真実のそれより過大であることを示すものと考えられ、第二年度においては、これ以上損金を認容する余地のないこと等の諸般の事情を勘案すれば、本件裁決が前記三三〇万円を昌美に対し建物取得費とは別途に支出されたと認定したこと、及び右三三〇万円を認定賞与と認定したことをもって、証拠に基づかない独断と認めることは困難であり、ひいて、被告税務署長が、再調査の結果、以上の諸事情及び第二年度における推計による簿外経費の算定の前提となる資産負債増減法による簿外利益の算定及び損益計算等の関係から本件裁決認定の三三〇万円の認定賞与の正確な数字は、三六〇万二、三八三円であるとし、これを昌美に対する認定賞与としたことをもって認定の根拠を欠く違法があると即断することはできない。
以上の説示に反する原告の主張は採用できない。
(3) 右昌美に対する認定賞与金額(三六〇万二、三八三円)と前掲乙第一、第二号証、第八四二号証の一ないし三、証人渡辺則是・同藤枝茂の各証言により第二ないし第五年度において原告が昌美や訴外奥村豊(昌美の弟で原告の監査役)に対して簿外資金から支給したと認められる金額、昌美に対する簿外貸付金の認定利息を合算すると、右各年度期末における昌美ら役員に対する認定賞与金額は次のとおりである。
第二年度 八〇五万五、八〇四円
第三年度 一、二〇一万八、〇二一円
第四年度 一、一九六万四、六九八円
第五年度 一、七七一万九、三七九円
なお、前掲乙第二号証、証人藤枝茂・同平川正雄の各証言によれば、第四年度における右支給金額等には、昭和四〇年一〇月八日に原告が簿外資金から訴外長谷川恒雄(医師であり、訴外奥村不動産株式会社の取締役)に支払った二〇〇万円が含まれていることが認められるところ、原告はその主張のような事情から必要経費として処理されるべきである旨主張する。
しかしながら、証人藤枝茂・同平川正雄・同谷千里の各証言によれば、訴外長谷川恒雄は昌美と個人的に親交はあるものの、原告とは関係がないこと、右二〇〇万円は同訴外人が医学研修のため海外に渡航した際に餞別として交付されたものであって、原告の業務とは直接関係がなかったことが認められるから、右支出は昌美個人が負担すべき支出であると認めるのが相当であって、原告の負担に帰すべき損金とは認められないから、原告の右主張は理由がない。
17 租税公課損金不算入額
租税公課損金不算入額が被告税務署長主張額(第四年度一万〇、四二〇円)のとおりであることは当事者間に争いがない。
18 交際費の損金算入限度超過額
本件各係争年度における交際費の損金算入限度超過額が被告主張のとおりであることは、前記認定のとおりである。
19 期中支出金額のうち使途不明金
前掲乙第二号証、証人藤枝茂・同平川正雄・同谷千里の各証言によれば、原告は昭和四〇年六月二日訴外長谷川恒雄に対し、簿外現金から一〇万円を支払っていることが認められるところ、前記認定のとおり、同訴外人は原告とは無関係のものであるから、被告税務署長が右支出金を使途不明金として処理したことは相当であって、右支出金について必要経費として処理すべきである旨の原告の主張は理由がない。
20 以上1ないし19によれば、資産項目の合計金額は次のとおりである。
第一年度 四億〇、二八一万五、四〇一円
第二年度 四億九、一一〇万五、二一〇円
第三年度 五億八、〇四四万〇、三九六円
第四年度 六億八、〇七五万三、三六四円
第五年度 七億一、二六六万八、〇五三円
(二) 負債項目
1 既更正の使途不明金
証人渡辺則是の証言によれば、既更正の使途不明金の金額は第一年度四八〇万円であることが認められ、これに反する証拠はない。
2 仮受金
第二ないし第四年度各期末における原告の簿外仮受金が被告税務署長主張のとおり(第二年度五〇〇万円、第三、第四年度各一、〇〇〇万円、第五年度一、五〇〇万円)であることは当事者間に争いがない。
3 預り金
証人渡辺則是の証言によれば、第四年度期末において原告の昌美からの簿外預り金として、二七一万三、〇三三円が存したことが認められ、これに反する証拠はない。
4 商品取引未払金
第五年度期末において、原告の簿外商品取引未払金一六四万九、二〇〇円が存していたことは当事者間に争いがない。
5 未納事業税
第二ないし第五年度における各未納事業税額は、前記認定のとおりであるから、右各年度期末に負債項目として計上すべき金額は次のとおりである。
第二年度 五二六万七、七五〇円
第三年度 一、四四四万一、五二〇円
第四年度 二、五六八万三、九二〇円
第五年度 三、六三三万三、一七〇円
6 以上1ないし5によれば、負債項目の合計金額は次のとおりである。
第一年度 四八〇万円
第二年度 一、〇二六万七、七五〇円
第三年度 二、四四四万一、五二〇円
第四年度 三、八三九万六、九五三円
第五年度 五、二九八万二、三七〇円
(三) 資本
前掲乙第一号証、成立に争いのない甲第二号証の一、弁論の全趣旨ならびに叙上認定の各事実を総合すると、本件各係争年度における前期繰越利益金は次のとおりであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
第一年度 三億五、三三四万九、三七五円
内訳 本件期首預金三億三、二一〇万七、五一三円、現金三五万九、三六二円、未収入金二、〇八八万二、五〇〇円の合計額
第二年度 四億二六万一、八〇二円
内訳 第一年度の繰越利益金三億五、三三四万九、三七五円、第一年度の簿外利益金額四、四六六万六、〇二六円、既更正の使途不明金四八〇万円の合計額から、第一年度の損金計上役員賞与二一七万五、八〇一円及び交際費の損金算入限度超過額三七万七、七九八円を控除した金額
第三年度 四億七、二三一万五、八八〇円
内訳 第二年度の繰越利益金四億二六万一、八〇二円、第二年度の簿外利益金額八、〇五七万五、六五八円の合計額から、第二年度の損金計上役員賞与八〇六万五、八〇四円及び交際費の損金算入限度超過額四五万五、七七六円を控除した金額
第四年度 五億四、三六〇万六、四二六円
内訳 第三年度の繰越利益金四億七、二三一万五、八八〇円、第三年度の簿外利益金額八、三六八万二、九九六円の合計額から、第三年度の損金計上役員賞与一、二〇一万八、〇二一円及び交際費の損金算入限度超過額三七万四、四二九円を控除した金額
第五年度 六億二、九四三万八、九〇五円
内訳 第四年度の繰越利益金五億四、三六〇万六、四二六円、第四年度の簿外利益金額九、八七四万九、九八五円の合計額から、第四年度の損金計上役員賞与一、一九六万四、六九八円、租税公課損金不算入額一万〇、四二〇円、交際費の損金算入限度超過額八四万二、三八八円及び期中支出金額のうち使途不明金一〇万円を控除した金額
(四) 以上認定の本件各係争年度における簿外資産金額から簿外負債金額及び簿外資本(前期繰越利益金額)を控除すると、本件各係争年度における簿外利益金額は次のとおりである。
第一年度 四、四六六万六、〇二六円
第二年度 八、〇五七万五、六五八円
第三年度 八、三六八万二、九九六円
第四年度 九、八七四万九、九八五円
第五年度 三、〇二四万六、七七八円
以上のとおり、本件各係争年度における原告の簿外利益金額は、資産負債増減法に基づき算定しても、損益計算による算定結果と同額になる。
よって、被告税務署長主張にかかる簿外利益金額はいずれも正当である。
五 昭和四五年三月一九日付再更正処分の適法性
原告は、昭和四五年三月一九日付再更正処分は禁反言の法理に違反し、また更正権の濫用に当たるので違法である旨主張するので、右主張の当否について検討する。
(一) 被告税務署長が昭和四三年一〇月二九日付異議決定において、原告の主張を一部認容し、「名古屋市中区広小路通り七丁目所在の宅地及び同区裏門前町一丁目所在の宅地ならびに店舗が昌美個人の名義になっており、その売却事実も相当の理由があるので、原告の申立を認める。」旨の決定理由を示し、右物件の売却代金七、五〇〇万円は昌美個人に帰属するものであって、本件期首預金中には、右七、五〇〇万円が含まれており、右金員は原告が昌美より預っているものと判断して、同金額に対応する支払利息四一二万五、〇〇〇円を損金として減算し、課税を訂正したこと、右異議決定に対し、原告主張のごとき審査請求がなされたこと、本件裁決において、右売却代金七、五〇〇万円は東京都中央区西銀座八丁目九番地の土地取得代金五、五〇〇万円及び同所の建物建築資金三、七〇〇万円合計九、二〇〇万円の一部として費消されているから、本件期首預金の中に昌美個人の右七、五〇〇万円が含まれているとして更正した原処分は相当ではないとして、その理由中に、「各事業年度において支払利息四一二万五、〇〇〇円を損金として認容した原処分は取消す」旨表示されていることは当事者間に争いがない。
そして、証人渡辺則是の証言によれば、異議決定段階においては、右各物件の所有名義人が昌美となっていたため、被告税務署長は、原告の主張を認容し、前記内容の決定をなしたが、本件裁決において、右のごとき内容の判断が示されたため、名古屋国税局調査査察部に保管されていた昭和二八年当時における原告に対する査察資料(乙第五、第六号証、第八三四ないし第八三九号証)等を調査し、右各物件はいずれも実質上原告の所有であって、前期売却代金も原告に帰属するものと判断して、昭和四五年三月一九日付再更正処分に及んだことが認められ、これに反する証拠はない。
(二) ところで、納税者より異議申立あるいは審査請求がなされた場合、税務署長、国税不服審判所長は、当該申立人あるいは請求人の不利益に当該処分を変更することはできない(国税通則法八九条三項、九八条二項)が右不利益変更禁止の原則は、当該手続内において増額決定をすることを禁止するにとどまるのであって、改めて別個の手続で再更正処分をすることは、訴訟係属中であっても、更正の期間内である限り何ら差支えないのである。
本件において、本件裁決は、単に原処分に違法または不当はないとして、審査請求を棄却したにとどまるものであるから、もとより不利益変更の禁止に違反せず、また裁決としての拘束力(国税通則法一〇二条一項)をも有しないものであるところ、前記認定のとおり、本件裁決の理由中に、前記各物件の売却代金は本件期首預金の原資とは認められない旨の前記判断が示されたことから、被告税務署長は右不服申立に関する一連の手続とは別個に、改めて資料を調査し、前記再更正処分に及んだものであって、この点に何らの違法は存しない。
従って、前記再更正処分は禁反言の法理に違反し、あるいは更正権の濫用であるとする原告の主張は理由がない。
また、原告は、昌美が他に売却した名古屋市中区広小路通り七丁目所在の土地等については、昌美において、昭和二九年分譲渡所得として申告、納税し、一方被告税務署長も原告に対する査察をした昭和二八年以降右物件について原告の所有であることなど問題にしたことはないのに、何ら新しい資料に基づかず、自己の過去の言動に反する措置(前記再更正処分)に出で、過年度に遡って多額の課税をしてきたもので、原告に対し不測の損害を与えるものであり、禁反言の法理に違反し、更正権を濫用する違法がある旨主張する。
しかしながら、先に認定したとおり、原告主張の名古屋市中区広小路通り七丁目所在の土地等の真実の所有者は原告であり、しかもその売却代金七、五〇〇万円は、既に費消され、本件期首預金に含まれていなかったのであり、本件再更正処分は、右事実を認定のうえなされたものであって、原告主張物件につき、仮に、昌美個人所有として譲渡所得の申告納税がなされていたとしても、原告に対し、再度譲渡所得税を課するというものではない。
このように、被告税務署長が、本件期首預金に昌美個人所有の七、五〇〇万円が含まれているかどうかを審査するための前提として、原告主張物件の真実の所有権の帰属者ないし、その売却代金の現存の有無を調査するに当っては、過去においてなされた右物件の譲渡所得の申告納税者が昌美であったか、原告であったかの事実に拘束されるいわれは毛頭存していないというべきである。
従って、被告税務署長の前記認定が禁反言の法理に反し、更正権を濫用するとする原告の主張は採用できない。
六 以上によれば、原告の認める所得金額(第一ないし第三年度については昭和四一年三月一五日付再更正処分にかかる所得金額、第四、第五年度については原告の申告にかかる所得金額)に前記各簿外利益金額を加算した金額(第一年度一億〇、七五五万九、三八四円、第二年度一億四、六八九万九、八二六円、第三年度一億四、八一九万〇、二四〇円、第四年度一億六、四七四万七、二九四円、第五年度九、三〇〇万〇、七九〇円)の範囲内でなされた本件再更正処分(但し、第一年度については昭和四三年一〇月二九日付異議決定により取消された部分を除く。)はいずれも適法というべきである。
また、以上に説示したところによれば、原告が本件各係争年度において自ら稼得した売上収入等の全部を正確に公表帳簿に計上せず、収入の一部を除外隠ぺいし、右除外隠ぺいの法人税の申告をなしたことは明らかであるから、国税通則法六八条一項の規定を適用してなされた本件各重加算税賦課決定処分も適法というべきである。
第三本件裁決の適法性
一 不利益変更禁止違反の有無
(一) 異議決定において本件期首預金中昌美個人に帰属するものと認められた名古屋市中区広小路通り七丁目の土地及び同区裏門前町一丁目の土地ならびに建物の売却代金七、五〇〇万円について、本件裁決の理由中において、右金員は東京都中央区西銀座八丁目九番地の土地・建物の取得費に費消されていて、本件期首預金には含まれていないとし、「預り金に対して各事業年度において支払利息四一二万五、〇〇〇円を損金として認容した原処分を取消す。」旨表示されていることは当事者間に争いがない。
(二) ところで、審査請求手続は原処分の違法・不当性をあらゆる角度から審査し、法による行政の執行と適正な行政運営を図らんとするものである。
従って、審査の対象は、原処分庁が認定した課税標準及び税額の当否全般に及ぶものというべきであるから、審査の範囲も所得金額に対する課税の当否を判断するに必要な事項全般に及ぶものと解するのが相当であり、原処分の段階において蒐集、調査されていなかった資料等に基づいて新たな事実を審査、認定し、またその理由に基づいて処分の当否を判断し得るものというべきである。
そして、原処分と異なる理由によって、あるいは審査請求人の主張する理由と異なる理由によって、原処分を維持し、審査請求を棄却することは、数額の増額をもたらすものでない以上、不利益変更処分にあたらないことは明らかである。
本件裁決は、被告税務署長がなした再更正処分を維持し、原告の審査請求を棄却したものにすぎず、納税額の増加をきたすものではないから、何ら不利益変更処分にあたらないことは明らかであって、原告の主張は理由がない。
なお、原告は、形式的には、裁決の理由中ではあっても、「原処分を取消す」旨の表示がなされている以上、主文に明示されたと同一の効果を原処分庁に発生させることは当然であって、実質的には原告に不利益に原処分を変更したことになるなどと主張する。
しかしながら、右表示は、表現方法としては必ずしも適切ではないが、その判断理由を示す過程で単に原処分の認定を否定したにすぎず、もとより右判断が原処分庁に対し拘束力を有するものでもないのであるから、原告の右主張も理由がない。
二 判断遺脱の有無
(一) 原告は、本件期首預金中に売上計上もれ分が含まれているとしても認定賞与とみるべきであり、また預金利息について重加算税の賦課決定は取消されるべきである旨の主張について、本件裁決は判断していない旨主張するが、本件裁決書(甲第三号証)記載の裁決理由によれば、原告の右各主張を否定する判断を示していることは明らかであるから、原告の右主張は理由がない。
(二) 原告は、「異議決定において株式会社中部財界社に対する株式払込金については賞与処分を取消して貸付金として留保処分とする旨明示されているのに、計算課税では右各払込金額の一割しか取消していないのは不当である」旨の主張及び「東京支店勘定第三年度一〇万円、第四、第五年度各四四万円を認定賞与としたことが不当である」旨の主張について、本件裁決は判断していない旨主張する。
しかしながら、右各事項は法人税の課税処分とは別個の源泉所得税(所得税法一六一条)の納税告知処分(国税通則法三六条)に関するものであるから、本件裁決において、右主張につき判断がなされていないからといって、判断遺脱の違法があるとはいえず、原告の右主張は理由がない。
三 以上のとおりであって、本件裁決には、原告主張の違法はなく、適法というべきである。
第四結論
以上のとおりであって、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本武 裁判官 浜崎浩一 裁判官 原田卓)
別表(一) 各更正処分の経緯 (所得金額欄および税額欄の単位=円)
<省略>
別表(二) 簿外利益金額の内訳 (各欄の単位=円)
<省略>
一、加算の部
<省略>
二、減算の部
<省略>
三、簿外利益金額の資産、負債の明細
<省略>
別表(三) 各年度別簿外利益金額のうち争点項目についての内訳 (各欄の単位=円)
一、加算の部
<省略>
二、減算の部
<省略>
三、資産の部
<省略>
四、負債の部
<省略>
別表(四) 各年度別期末資産項目中の銀行預金の内訳 (単位=円)
<省略>
別表(五) 第一年度期首現在の原告帰属簿外預金の内訳 (単位=円)
<省略>
別表(六) 奥村昌美にかかる昭和三六年以前分の申告所得税の所得金額
<省略>
別表(七) 常陽銀行普通預金の月別入金額 (単位 円)
<省略>